Who is YOU?

「目が覚めた?」

 覚醒に違和感があった。身体が重いのもそうだが、いつものように寝返りが打てず、姿勢は着座状態だった。椅子に縛り付けられているのだと気づくまでに、時間はかからなかった。

 そこは、見覚えのない倉庫のような場所だった。

「おはよう、ぐささん。お加減いかが?」

 黒髪ロングに白いワンピースの女が、こちらを見ていた。歳は20代ほどだが、小悪魔じみた微笑みは、9歳か10歳そこらの子どもを見ていかのようにも思えた。

「……どういうこと? なぜ私の名前を? ていうか、ここはどこ!?」

「あら…そんなに矢継ぎ早に質問されても答えられないわ。まず物事は順序を追って明らかにしていかなきゃ。ね?」

「くっ…!」

 女はくすくすと笑う。その態度が気に入らなかった。

 手をガチャガチャと動かすが、拘束は一向にほどけない。私は諦め、女を問い質すことにした。

「……あなた、名前は?」

「名乗る権利が?」

「私のことは知ってるんでしょう。でも私はそっちを知らない」

 不平等じゃないか。私はそう言った。確かにそう言ったのだが、相手から返ってきたのは。

「どうして?」

 その一言。心底不思議そうに、そう抜かしやがった。

「知らなくていいことを知る必要はどこにもないんじゃないの? すぎ千種さん」

 おかしくてたまらない、そんな風に女は笑った。そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。しかしキレてしまえばそこで負けだと、うすうす勘づいてはいた。だから質問を変えた。

「…目的は」

「主語がない。主語がなくちゃ答えられない」

「……あんたが私をこんなところに連れてきて、椅子に縛りつけてこんなふざけた問答を繰り返してる、その理由よ!」

 語気を荒げる。それも相手の作戦の内かもしれない。のらりくらりと躱して、時間を稼ぐための。

 ……だが。

「ただの気まぐれ」

「は?」

 女はあっさりとゲロった。そしてそれは、ごまかしている風でも嘘を言っている風でもなかった。

「……何それ。ばかばかしい! 一体なんで…!」

「さぁ?」

 また、くすくすと笑い始めた。そこでようやく、

「なっ」

 絶句していると、不意に女の背から一対のが伸びた。

「ねぇ。人間をからかうのって、面白いわよねぇ?」

 女の顔が歪む。意味がわからない、意味がわからないということだけが、わかる。

「……人じゃ、ない」

「ご明察よ」

 でももう飽きちゃった。絶望の宣告だった。縛られたまま命乞いを始めた私を、そいつはただ大笑いしながら、見つめていた。

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