スウィート・ハウス

 ザラメの効いたカステラというのはどうしてこう美味しいのだろう。濃いめの日本茶とともに、お土産物のそれを頂くことにした。

 我が家は2階建ての喫茶店を改装し、というかほぼ居抜きで住居として使っている。大正時代にオープンしたという由緒ある店舗だが、平成不況で閉店。その後、私の親戚が買い取ったが持て余し、ちょうど進学のためにひとり暮らしを画策していた私のもとにお鉢が回ってきたというわけだ。


 この家はいい。何より風情があるし、内装もとても綺麗だ。2階部分が併設されていて、しっかり家として使えるようになっているし、店にあったもので比較的汚れの少ないものはそのまま私が使わせてもらってる。設備に不備はない、そして何より、このすてきなマイホームにはすばらしい同居人がいる。

「ん……いい匂い!」

「おはよう、あや

 西さいじょう彩芽。後輩で幼馴染。彼女もまた進学を機に親元を離れようとして、しかしそれには生活費がネックで……といったところで、私が彩芽を誘ったのだ。

「おはよーかえで! お茶淹れたの?」

「うん。お隣さんにカステラ頂いたの」

 ほら、と紙袋を見せる。彩芽の顔がほころんだ。かわいらしい。

 ふわりとした髪が妖精のようで、彫りが深く、目鼻立ちのくっきりした顔を彩っている。しかしながらころころと表情を変えてくれて、飽きない。いつまでも見ていたくなる愛らしさだった。服のセンスはやや幼いので私が見繕っている。背丈は低いけれど動きは俊敏で、運動部のキャプテンを勤めたこともある……彩芽の魅力は話せば尽きることがないのだった。

「じゃあ私ももらっていい?」

「もちろん。切り分けとくね」

「わあい! ありがとー!」

 とたとたと駆けていき、彩芽はカップを取りに行った。その間に、カステラにナイフを入れる。

 彩芽といると、常に心が浄化され続けているような錯覚を覚える。彩芽がかわいいというのはもちろん、どういう風に育てばそうなるのかわからないほどには純粋だ。それは決して子どもっぽいというわけではない。それはそれとしてかわいいのだ。


「なぁに、ニコニコしちゃって」

「そう?」

「うん」

 カステラを食べながら、得意そうに彩芽が指摘する。こうしている間にも表情がめまぐるしく変わって、楽しい。

「そっか……彩芽といるのが楽しいからかな」

 そう口にしたあとで、まるで付き合いたてのカップルみたいだ、とひとり笑う。

「……なにそれ」

 言いながらぷい、とそっぽを向いた彩芽の耳が赤かった。

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