Scary Cradle

 街中を走り抜ける私鉄の速度はおおよそ時速50キロメートル。これは普通の各駅停車と急行列車で変化しない。そして急行は通過駅に差し掛かると時速を35キロまで落とす。タイミングはそこしかない。


 私は400ccのオートバイに跨がり、先行する急行列車を追った。田舎の私鉄なので、線路沿いに都合良く道路が敷いてあるとは限らない。

 のどかな田園地帯を走る、3両編成の私鉄。しかし、その車内では恐ろしい陰謀が繰り広げられていることを、私は知っている。

 小型爆弾。野球ボールほどのサイズだが実験では鉄筋コンクリートの2階建てを易々と吹き飛ばした。それをべく、文字通りの命知らずがあの電車に乗っている。絶対に阻止しなければならない。

『今併走中。車内の状況を』

 ボイス機能を使用し、メッセージアプリで送信。車内にいる美桜みおがそれを受け取り、現況を伝えてくれる。程なくして、ヘルメット内蔵の

 HヘッドマMウントディDスプレイに返信が表示される。

標的ターゲットに動きなし。仕掛けるならどこか?』

『私ならいけはる竹町たけまち間かな』

 乗換駅がある。集まる人の数は多い。が見込める。私は歯ぎしりした。

 美桜に危険が迫っているというのが懸念事項だった。彼女も特別編成員だが、戦闘力は民間人と大差ない。いや、私情は必要ない……私はかぶりを振る。

 潜入ポイントが迫っていた。


 犯人の思惑がわかったのが今朝だ。そこから割り出しを進めて、美桜を尾行要員にした。極秘作戦。鉄道会社とこの車両の運転手以外には、混乱を避けるため通達していない。もしバレれば、犯人はその場で起爆するだろう。

(今はやめてくれ…)

 私の読みが外れていないことを祈り、また乗客に見つからないことを祈った。

 電車が通過駅に入る直前。道路のやや下にある。好都合だ。線路へ車体を下ろす。反対側の線路を10メートルほど走り、ロープつきの槍を電車側面に突き刺した。乗客の視線を感じる……なるべくなら早く、ことを済ませたい。

「はぁっ!」

 槍を捉えて飛び移る! ドアの隙間にナイフをねじ込み、こじ開ける。悲鳴、警報、怒号。私はストックを広げたブルパップのライフルを取り出した。車内が阿鼻叫喚となる。無視した。

清佳さやか! あいつ!」

 当該車両に入るとすぐ、美桜がそう叫んだ。伏せる乗客たちの中に、ひとりだけ立っているフードを被った男。

「畜生!」

 爆弾の信管を抜こうとしていた。私は躊躇わず引き金を引いた。男はぶっ倒れた。

 爆弾を回収する。美桜が駆け寄ってきた。

 乗客の悲鳴で耳が割れそうだった。

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