快眠業者 Ⅷ
言いつけを破って、複数の探偵業者に依頼した。それもこれも快眠業者の姿が影も形も見えなくなってから、である。
本人に悟られるような真似はしていない……と思ったのだが。
(見つからない)
毎日一度は電話をかけている。呼び出し音のあとに、この番号は現在使われておりません、と無機質なメッセージが流れる。このままでは尻尾も掴めず消えてしまう。焦りばかりが加奈の頭を支配した。
(もっとパーソナルな話を聞いておくべきだった)
手がかりがない。依頼した探偵からも、これといった情報はもたらされない。
本人に見つかるかも、と敬遠していたSNSにも手を出した。匿名で、それとバレないように、嘘と真実を織り交ぜつつ、いくつかの掲示板に投稿した。有益な情報もあることにはあったが、信憑性には欠けた。
眠れない日々が続いていた。快眠業者の
元に戻りつつあった。何もかも、うまくいっていなかったあの頃に。
街外れにある洋館に、奇妙なバケモノが住み着くようになった。そんな都市伝説がまことしやかに囁かれ始めた。加奈の住む街の、2つほど隣。古い街だった。伝承や民話のたぐいが、たくさん残っているような。
加奈はそこもとっくに調査済みだったが、洋館の噂を聞き、探偵と共に隣の街まで赴いた。
「やめといたほうがいいんじゃないすかねェ」
見るからに気弱そうで、どうして興信所なんかやっているのかわからない青年だったが、それでも5枚ほどの
探偵は現場に到着してもなお及び腰だった。
「……警察に任せたほうが……」
「めぼしい発見はなかったそうです」
行きましょう。さっさと規制線のロープを踏み越えていく加奈の後ろで、勘弁してくれよぉ、という悲鳴に近い声が聞こえた。
内部は埃臭く、暗い。加奈は懐中電灯を点けた。人が侵入した形跡はなさそうだ。バケモノとやらが本当に怪異のたぐいなら、加奈に打つ手はないだろう。しかし、相手が生物であるならば、少なくとも姿くらいは見えるだろう。
「帰りませんか?」
探偵が言った。加奈は何も言わずに彼を一瞥し、洋館のホールを横切った。
靴音がよく響く。吹き抜けになっているようだ。採光窓は小さく、上のほうの様子は掴めなかった。
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