貴女を待たせて
早朝に家を出る。それでも街道は人でごった返しており、神社までは長蛇の列が出来ていた。私はブラウスと制服のスカートの上にコートを羽織った。案の定、寒い。
「好きです」
昨年12月25日、私は告白された。相手は部活の後輩の女の子。クリスマスにデート行きましょうよ、と誘われて、ショッピングや食事を楽しんだあとで、イルミネーション煌めく街路樹の下で告白された。
「
――なんと返事をしたのか、詳しいことは覚えていない。ただ待ってくれと、先輩らしくもない挙動で返事を先延ばしにしたことは確かだ。
別れ際の彼女……
霜柱を踏みながら、境内から少し離れたところを歩く。山の上にあるお社で、少しばかり階段や坂道を登らねばならないが、かなり由緒正しいところらしく、全国から客足が絶えない。私は高校の寮で生活しているが、毎年末には実家に帰ってきて、元日に人波に揉まれながら参拝を行っている。
今日は2日だ。本来ならもう来ることもないのだが、彼女からこの神社で会うことを提案してきた。
27日にも連絡を取った。実家に帰ることを口実に、新学期まで引き延ばそうとしたのだが。
『先輩のお家って、あの神社があるところですよね。だったら私、祖母の家がその近くなんです』
だったら。私も同意した。
『じゃあ1日に――』
「あ、でも1日は家族で初詣なんだ。だから……」
じゃあ2日で。結果発表を先延ばしにする中学生みたいで情けなかったが、その結果には一応安堵した。新年早々では、覚悟も踏ん切りもつかないだろうから、1日間だけマージンを持たせてもらった。
……特に意味はなかった。24時間ちょっとで覚悟が決まるわけでもなかったし。
吐いた息が白い。小さい地蔵や祠が並ぶエリアを抜けていく。参道と違って人はまばらだった。
「あそこ、参道から離れたとこに大きい杉の木あったよね?」
『ああ…あの下の段のところ。ありましたね、あそこに?』
杉の下に美冬を見つける。クリスマスの時と同じ服装だった。彼女なりに気合いが入っていると言うことか。
なんだか嬉しくなった。
「美冬!」
私よりひとまわり小柄な影がこちらを振り向いた。美冬は笑顔だったが、少しばかり緊張しているようで。
「待たせてごめんね」
「いいえ。今来たとこです」
――その緊張を、解いてあげることにした。
……もっとも、余計に緊張することになるかもしれないけど。
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