2020年

ペンタゴンガールズ Ⅱ

「あけましておっめでとー!!!」

 除夜の鐘が鳴り響く。われらが女子寮では、かれこれ20年来の「年越しとともにシャンパンを開けて1年の無病息災を祝う」という恒例行事が存在しているのである。それに則るべきか否か、はげしいろんせんがくりひろげられたのだが、けっきょく開栓の運びとなった。

「いやぁ、無事に明けてよかったねー」

「ホントホント。隕石でも落ちるかと思ったんだけどなぁ」

「……天文学者何も言ってなかったでしょ」

 こういうバカ騒ぎが出来るのも女子寮ならではだ。

夏菜子かなこは? 寝ちゃった?」

「うん。私の膝の上でね」

 由良ゆらが夏菜子の頭を撫でながら言う。さながら慈母の微笑みだ。

「あたしらもそろそろ寝るかな」

 圭子は眠そうに目を擦り、欠伸をひとつ。

「だね…カウントダウンもやったし。んじゃ、おやすみぃ」

「朝から初詣だかんなー」

 圭子と美鈴は示し合わせたように寝室へ引っ込んだ。


 だ。

 こんな狭いクローズドコミュニティで、果たして本当に誰にもバレてないと思ったのだろうか。あの2人はている。わたしと由良と夏菜子はとっくに気付いて、よく噂話までしているというのに。その由良と夏菜子もまた、のは明確だろう。夏菜子はともかく、由良は「気づかれている」ことには気づいていないのだろうか。あれだけあからさまなのに? 今だって、膝枕の上で寝息を立てる夏菜子への視線は明らかに友だちへ向けるそれではない。

「…私たちは先に寝るけど。あやはどうする?」

「……寝るわ」

 なんだか面白くない。わたし以外全員デキてるなんて。

「……そう。おやすみ」

「おやすみ」

 布団に入っても眠れなかった。わたしの寝室は圭子らと共通だが、もしかしてわたしのせいで2人は愛し合えないのでは、とか、そんなことばかり考えてしまう。1年の始まりに、気分は底まで沈んでいた。



 出発前、車の前で夏菜子に話しかけられる。

「……紗綾ちゃん」

「なに?」

 元々夏菜子はそこまで騒がしいほどではない。しかし、ことさらにひそひそ声だった。

「……わたしたちの関係、気づいてるよね」

「……」

 わたしと由良と、圭子ちゃんに美鈴ちゃん。紗綾ちゃんが疎外感感じてなければいいんだけど。夏菜子は続けた。

「ふふっ」

「笑っ…⁉」

「ああ、いや、ごめん」

 気にしてたことを指摘されると、なんだかバカバカしくなってきた。

「行こ。初詣」

「うん、そうしよっか」

 わたしは、とにかく騒がしいなかで車を出した。晩までと違って、悪い気はしなかった。

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