今年もまた
「年の瀬」を感じる瞬間といえば? 私なら、スーパーで買った食品の賞味期限が年をまたいでいたときだ。西暦の下二桁が見慣れない数になっていると、強烈なまでに意識してしまう。
このことを
「確かに毎回、年越しが近づくたびにどうも気が急くのよねぇ。あれしなきゃこれしなきゃ、今年中に済ませなきゃいけないものも、来年に持ち越すものも」
クレジットカードの書類を整理していた雪乃はひと息つくと、私がテレビを観ている炬燵に滑り込んできた。
「はー寒々。家ん中いても寒いもんは寒いわぁ」
「ねー。でも年内にもっかい買い出し行かないと……あ、ミカンとって」
「……」
無言で投げられる。かなり速度がついていた。
「ぐえっ」
「今年は年賀状どうする?
「
「あとはメールで大丈夫でしょ? どうせ年一で会うか会わないかなんだし」
あぁ、なんとも年末らしい会話。これから雪乃がブリの照り焼きを焼いている横で私が年越し蕎麦を仕込むのだ。毎年そうしている。そして年が明けたら、ふたりでお雑煮を食べて、初詣に行って……なんでもないことのようだけど、なんでもないことを続けられるのが幸せなんだと思う。というかそんな歌があった気がする。
「今年もありがとね。
「何よ。改まって」
「パートナーへの感謝の気持ち」
ふふふ、と雪乃が笑う。私もつられて頬を緩めた。いきなりこういうことされると、かなり気恥ずかしいけど……嬉しかった。
「そうだ! 忘れるところだったわ!」
雪乃は出し抜けに手を叩いて立ち上がった。
「今日ってまだ25日だよね⁉」
「そうだけど……何? クリスマスプレゼント?」
「うん、まぁそんなとこ! 冷蔵庫にケーキ入ってるんだ。食べよ」
「へぇ! どこも高いって言ってたけど買えたんだ?」
「ふふふ。雪乃さまのリサーチ能力を侮らないでいただきたいっ」
せーの、どんっ! とばかり、冷蔵庫から取り出されたのは、4号サイズのホールケーキ。生クリームとイチゴが乗っかり、ホワイトチョコに「Mery Christmas!」と書かれたプレートが乗っかっている、このうえなくシンプルで、ゆえにそそられるやつだ。
雪乃とふたりで切り分ける。晩ごはんは特別ご馳走にしたわけではないが、なればこそケーキを楽しむのも悪くない。
「幸せだね」
「うん、幸せ」
どちらともなく笑い合って、ケーキを口に運ぶ。
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