快眠業者 Ⅴ

「写真や文章や絵は、とりわけ人の思念が宿りやすい媒体でね。撮ったり書いたりした者の意志や感情が浮き出るように見えてくる……たった一枚の写真でも、ね」

 要は、関係のある人物に纏わりついている感情を、形あるものとして捉えることができる……ということだろうか。自分の考察ながら意味不明だが、仕組みがわからないのでそう推察するしかない。が、もし仮にそうだとすれば、一応の辻褄は合う。

「本人の写真とかがあれば良かったんですけど」

「本人を映したものよりも、本人がシャッターを押したもののほうがいい。機械が撮った証明写真ならいざ知らず、撮った本人の念が入り込んでしまうから」

 こういう仕事をしているとついアナログなほうがいいのだと思われがちだけど、機械はウソをつかないからやりやすい、とも彼女は言った。


 快眠請負人は、そのまま加奈のスマホとにらめっこを始めた。ぐ、ぐと手元に意識を集中させ、先程水晶に対してそうしていたように、真剣な顔つきで念を込める。背中越しに加奈も、その光景を固唾をのんで見守っていた。

「…………」

 快眠請負人が口の中で何ごとかをぶつぶつと唱える。すると、スマホの画面にノイズが走り――瞬く間に、ブルースクリーンを思わせる文字の羅列が表示された。

(……壊れた⁉)

 一瞬懸念したがそうではないらしい。間もなくスマホは、まるで勝手にシャットダウンを始めた。

「…………なるほど」

 何が、と問う前に、快眠請負人はスマホを手に取り、加奈へと返した。

「インターネットのブログからやったことなど初めてなので、効果のほどは正直保障しかねるけど……概ねは掴めました。本でやったときと同じです、少々時間がかかるので、あとは私にお任せをば」

 快眠請負人は、にっこりと笑ってそう言った。


 朝、自宅で目覚めてすぐ、加奈はテレビのスイッチを入れた。

 ワイドショーはパチンコ店強盗の話で持ち切りだった。容疑者として、磯村いそむらの名前も挙がっていた。専門家や元警察官が事件について論じる中、自分もよく知っている高校時代の磯村の写真が時折挿し込まれるのは、滅多にない経験だった。

 ――匿名で通報があったということですが。

 ――女性の声で、2丁目の林道に放置されている軽自動車を調べてほしいと……。

 ――そこに磯村容疑者が……。


 ……あれ? もう捕まっているものかと思っていた。通報が遅れたのだろうか。否、快眠請負人はあの後すぐに磯村の居場所の特定に取り掛かったはずだが。

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