鬼瓦島

 モーターボートを接岸させる。背広にパンツスタイルの里穂りほは、ひらりと席を立つと、瞬く間に1メートル50センチは上にある岸壁の上まで登っていった。

「ありがと麻衣歌まいかー! んじゃあとで連絡するから!」

 はいはいと手を振る。しかしバケモノじみた身体能力だ。体重を感じさせない動きで、舞うように走っていって、あっという間に見えなくなった。

「……さて」

 私はモーターボートを後退させ、コンパスを頼りに南南西に進路をとった。背後には里穂の潜入先……おにがわらしまが聳えていた。


 2日前、研究所ラボで私と里穂はボスの博士ファーザーに指令を受けた。

「近頃わが国に流通しつつある高純度のヘロインは、鬼瓦島が生産拠点であるという報が入った。言うまでもなく鬼瓦島とは国際マフィアが瀬戸内海に購入した無人島を改造して作られた要塞である。君たちにはこの鬼瓦島を壊滅に追い込んでほしいのだ。中には自動小銃を持った警備兵がウロウロしているが、私は君たちならこの危険な任務をこなせると信じている。できるな?」

「イエス、ボス」

「イエス、ボス。必ずや敵の野望を打ち砕いてご覧に入れましょう!」


 かくして私たちは鬼瓦島に突入することとなった。

 里穂はその身体能力を生かして切り込み隊長に。体質上銃弾が効かないから、こういうことにはもってこいだろう。対して私はというと戦闘はからきしなので、精製プラントを壊滅させた里穂の脱出を手引きすべく、モーターボートを海上に待機。里穂を拾い次第四国へブッ飛ばし、博士の部下に拾ってもらうという魂胆だ。

 程なくして、鬼瓦島から火の手が上がった。西洋風の城塞があり、東西に尖塔が突き出ているが、そのひとつが爆音とともに崩れ去ろうとしている。同時、通信器に入電があった。

「もしもし、こちら麻衣歌」

『こちら里穂! やったよ麻衣歌、ヘロインプラントの爆発を確認! もう国内に出回ることはないよ!』

「よーしでかした! そのまま兵隊をブチのめして南端の埠頭に来て!」

『了解!』

 私はモーターボートを反転させた。混乱のなかで銃を撃ちまくる敵の猛攻を掻い潜り、再び鬼瓦島に接岸する。

「よっ!」

 間もなく現れた里穂がボートに飛び乗る。彼女はそのままボート後部の機関銃座に飛びついた。

「いいよ! 出して!」

 崩壊してゆく鬼瓦島から遠ざかる。敵は健気にも泳いで追ってきたが、里穂が何発か断続的にぶっ放しているとその数もそのうち減った。


「いぇーい!」

 逃げおおせ、どちらともなくハイタッチをする。夕陽が瀬戸内海を染めていた。

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