CHASING!!!
短機関銃を後ろ向きに掃射しながら、オフショルダーのドレスに身を包んだ少女が一目散に突き当たりの窓目掛けて突進する。身長は5フィートにも満たない、小柄な体躯であるが、その逃げ足は速かった。
名を、リーシャという。
そのリーシャを追うのは、揃いも揃って黒スーツと黒革靴をめかし込んだ団体様だ。性別も背格好もバラバラだが、拳銃片手に一糸乱れぬ動きでリーシャを徐々に追い込……めなかった。
「アリシア! 所定の位置に停めたっ⁉」
リーシャは腕時計に呼びかける。すぐにレスポンスがあった。
『オーケイリーシャ、タイミング完璧だよ! あとはそのまま東側の嵌め殺しのステンドグラスをカチ割れば――』
アリシア、そう呼ばれた少女が通信を終える前に、リーシャ渾身の蹴りがステンドグラスに炸裂した。いかにも高価そうな、精緻な造りのそれは、瞬く間に粉々になる。
「ミッション・コンプリートっ‼」
追っ手たちは一瞬、呆気にとられ……はっ、と意識を戻すが、もう遅い。
「じゃーね、おバカさんたち!」
ウインク。間髪入れず始まった銃撃から逃れ、真下のアリシアのオープンカーにダイブする。車にはクッション代わりにと、大量のぬいぐるみが詰め込まれていた。
「サンキューアリシア! サンプル、盗んできたよ!」
ぬいぐるみに埋もれながらリーシャは、懐から薬瓶を取り出した。新薬を投与された患者の血液である。
「よっし! じゃあ早いとこズラかろう!」
「おーっ!」
アリシアはギアを1速にブチ込んで、800馬力のモンスター・エンジンに火を入れた。車はタイヤをスキールさせ、かと思うと猛烈なエキゾーストを残して加速、夜の街に姿を消した。
アリシアはリーシャの姉貴分だ。孤児だったリーシャに、銃の扱いをはじめ、戦場で生き残るすべを教えてきた。今ではこうして、国家直々の依頼を受けるまでになっている。
「ねぇねぇ、これが終わったらさ、南の島行こーよ! ねっアリシア?」
夜風に髪を靡かせながら、リーシャが無邪気に笑う。アリシアもサングラス越しに微笑んだ。
「そうだね、たまにはそういうのも……ん?」
高速道路を疾走するオープンカーのはるか前方、何かが煌めく。咄嗟にアリシアはハンドルを切った。次の瞬間轟音とともに、さっきまで走っていた所に砲弾が落ちた。
戦車がこちらに砲塔を向けていた。
「……リーシャ、南の島に行くんなら……」
「まずあれを片付けるっ‼」
リーシャはどこからか取り出した対戦車ロケット砲を射出した。
夜はまだまだ終わらない。
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