丁19ん十s
目を閉じる。
そうすることで視覚が奪われ、触覚・聴覚・嗅覚・味覚……残りの五感が鋭くなる。なった気がする。たぶん。
顔を動かす。唇を少し開いて、息を吸う直前のような形をとる。
そのまま、顔全体を生温かいもので覆われる。息が詰まり、苦しい。だがそれ以上に心地良く……心臓がどきどきと早鐘を打ち、あぁ私は興奮しているのだ、と自覚できる。
「気持ちいい?」
鈴を転がしたような声音が、頭上から降ってくる。私は、うんうんと何度も頷いた。
「ちょっ……あはは、くすぐったいって」
鼻息が当たってしまったようだ。少し興奮気味し過ぎたか、と顔を離して反省した。
目を開く。タイツに包まれた両足が、お行儀よく並んで突き出されている。熱とわずかばかりの臭気が、空気のなかに残っていた。
遡ること数日前。
「………私のタイツを嗅ぎたい?」
クラスメートの
「私ね、タイツ履いてる女の子の脚が好きで――」
あまりにもあまりな告白だが、金沢さんはバカにしたりせず、比較的真摯に対応してくれた。だから私も臆することなく、自分に芽生えたあまりにどうしようもない性癖について話した。
「うーん……」
私の話を聞き終わった金沢さんは、しばし考え込んでいたが……やがて何かを決心したようにうん、と頷いて、顔を綻ばせた。
「
ありがとう! と叫んで抱きつかなかったのが不思議なくらいだ。私はこの良き理解者に、感謝の言葉を矢のように浴びせた。
「ここならいいかな?」
放課後、空き教室。金沢さんはタイツに包まれたほっそりとした脚をなまめかしく組み替え、上品な仕草で机の上に座った。
今日から11月、タイツを履いた女子などわが校にもごまんといるが、やはりここは品行方正容姿端麗クラスの人気者、金沢美春に頼んでこそだろう。快く私を受け入れてくれた懐の深さに感謝しつつ、私は彼女の足に顔を沈めた。
冒頭に戻る。
「ごめんね、変なこと言っちゃって」
「いいえぇ、喜んでもらえて何よりです。それで、なんだけどさ」
くるり、とタイツを回して、金沢さんは振り向いた。足、上半身、顔と視線を移して、にんまり笑う彼女と目が合った。
その瞳は、どこか蠱惑的で。
「石川さんに足押し付けるの……ちょっとクセになったかも」
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