ハロウィン
恋人とは月イチで会うようにしているわけだが、今月の彼女が出したのは「お互いに仮装をした状態で会うこと」という条件だった。仮装? 胡乱な、と思いながらカレンダーを確認すると、確かに10月も終わりかけである。
「あなた去年はハロウィンやってる渋谷の中継見てバカにしてたでしょうよ」
『いやはや、やりたくなっちゃってね。心境の変化ってやつ?』
そんなやり取りを交わした翌朝、私は仮装に悩んでいた。あんまり攻めた格好をしてもアレだろう。スタイルが良ければともかく、夏の間も水着をめかしこむことなどなかったので、腹回りはすっかり油断しきっている。できてもローブ系とか……マミーはダメ。いっそスーツでヴァンパイアとかでも……。
どうしよう。やるとは言ってしまった。今さら引き下がれまい。私は手近な雑貨屋と衣料品店をハシゴすることにした。
10月31日当日、午後6時。
私は待ち合わせの渋谷アオガエル前で、着慣れない格好にもじもじしながらも彼女の到着を待っていた。浮かれているのが私だけだったらどうしよう、という心配は、辺りそこら中に溢れかえっている浮かれポンチなカッコの連中が打ち消した。なんだろう、これ。共感性羞恥? TVカメラがやってくる前にどうにか立ち去りたいところだが…。
「ごめん、待った?」
思案していると、お待ちかねの彼女の声が聞こえた。
「もー、遅いよ……」
す、と頭を上げて絶句する。
言い逃れのしようのないほどのシンデレラがそこにいた。淡いグリーンのドレスにティアラに真珠のネックレス、化粧もバッチリ。
「いやいや、数年ぶりに着たから手間取ってさぁ」
言いながら彼女はくるくると回ってみせる。悔しいことにとてもかわいい。
「うん……よく似合ってるけど、凄いね、それ着る度胸が」
「なんだとぉ。そういう自分は赤ずきんじゃん」
ボレロに赤いワンピース、その上にフリルエプロンも合わせてみた。ただし狼の耳をイメージしたカチューシャも着いてあったりする。
「似合う?」
「他のやつに盗られたくないなってぐらいには、ね」
「い、いきなり彼女面をされると照れるな」
「よし、じゃあ行こうか」
「もうじき人も増えるだろうしね。って言っても、えらく混み合ってるよ? どうする?」
ふっふっふ、と彼女は含み笑い、懐から車のキーを取り出した。
「カボチャの馬車まで手配済みとは。お見それしました!」
「くるしゅうない。それじゃひとっ走り行こっか! 夜の東京はオツなもんだよ!」
「よっしゃー! 行こう行こう!」
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