友と恋のあいだに
午後10時近くなってから、わたしたちはようやく、予約を入れていたゲストハウスに辿り着いた。受付の人は何も言わなかったが、たいそうご迷惑をかけたであろうことは想像に難くない。とりあえず二人で平謝りしておいた。
「やっぱり
「仕方ないじゃん、初めて来るとこだったんだからさー」
言い合いながら、車から降ろしたキャリーバッグを引きずっていく。まぁ辿り着けたしいいけど、と
部屋に着く。
「4人部屋だって言ってたけど、他にお客さんいないのかな」
「かもね。今ちょうどオフシーズンだし」
答えながら、外套をハンガーに掛ける。
「恭子も脱ぎなよ。疲れてるでしょ」
「えっ……ぬ、脱げとか! やらしー! 千秋ったらもう~!」
「ちっ違、そんなつもりで言ったんじゃなーい!」
わたしをなんだと思っているのか。胸を押さえてきゃーきゃーとふざける恭子をぽかぽかと叩く。
「り、リラックスしろってこと! わたしが言いたかったのは!」
「わかってるよぉ、そんなムキになんなくても」
わたしと恭子は付き合っている。とりわけ普段はそれを意識し合うこともない。友達の延長線上のような感覚。告白はわたしから、男女の関係なら一定以上に仲良くなると「恋人」なるハクがつくのに、女同士でそうならないのはおかしい、というわたしの勝手な理論に基づくものだが、恭子はOKしてくれた。ただ、こうして一緒にいてもその距離は友達でいたころとなんら変わりない。
そのはずだった。
わたしと恭子は服を脱ぎ、一緒に浴室に飛び込んだ。迷惑にならない程度の音量で、二人してバスタブの中で歌ったりなんかして。ただ、何か話題がある間はともかく、黙ると二人の間に妙な沈黙が生じる。こう……服を脱いだ
それを恭子も承知していて、さっきから耳を真っ赤にして押し黙っている。
「……どうするの、今日は」
「えっ」
「千秋のしたいようにすればいいけどさ」
「……」
友達の距離感、恋人の距離感。手を出したのもわたしの方からだ、その責任を取るべきなのは明白だし、わかっているし、そうしたい。
「……先に上がってるから。答え出してて」
恭子が立ち上がる。全身が余すことなく視界に飛び込んでくる。
耐えられない。
「……わかった」
意を決する。
「服、着ないで待ってて」
わたしの宣言に、かぁっ、と恭子は頬を紅くして。
「千秋のえっち」
「なっ……答え出せって言うから!」
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