バーガー・ララバイ

 真昼のファストフード店は人の波でごった返している。

 店員の声、客の声、店内放送、それが止んだら店内のBGM、ひっきりなしに音の波が襲いかかる。この環境で店内食を試みる連中の気が知れない。注文と支払いを終えた私は、邪魔にならない位置でスマホを弄りながらブツの出来上がりを待っている。社食のそれに比べれば割高なセットメニューも、時間帯やクーポンの使い方次第で驚くほどコスパの良い昼飯へと化ける。

「75番でお待ちのお客様ー!」

 店員の声に、お、来たか、とスマホから顔を上げた。手元のレシート兼整理券には確かに『75』の数字。うきうきと店員から袋を受け取る。テリヤキバーガーのセット、Lサイズのコーラにハッシュポテトを合わせた。店員に礼を告げ、心持ち軽くなった足取りで店を後にした。


 会社に戻り、悠々とオープンテラスの席にハンバーガーの袋を置いたところで、違和感に気付いた。買ってきたテリヤキバーガーがやけにゴボウ臭い。というより、モロにきんぴらごぼうの匂いがするのだ。

(……これは)

 さては取り違えたか。そういえば店のフロアはいつも以上にてんてこ舞いだった。私の前に注文した客も、コーヒーがコーラになっていたといってカウンターに現品を持ってきていた。新人も多かったし、そういうこともまぁあるか、ときんぴらバーガーに口をつけようとしたところで、テリヤキバーガーときんぴらバーガーには100円近い差額があることに気付いた。

 これはいけない。私はアッシュ・グレーの脳細胞をフル回転させた。

 急いで店まで戻るか? 答えは否だ。会社の昼休みはあと10分足らずで終了する。往復していては到底間に合わない。それに腹も空いている。午後からはハードスケジュールだ、遅刻したうえに空腹となれば身がもたない。仕方なく返金前提のきんぴらバーガーをかっ込みながら、店の電話番号を調べる。幸いにもレシートにはレジ担当の名前が載っており、その場で連絡を入れて、仕事終わりに差額を返金する旨を通達しておいた。


 夜10時。すっかり遅くなってしまったが、差額の90円を握りしめて店のカウンターへ向かった。0時まで営業している店にはスタッフが残っていて、何度も頭を下げながら応対してくれたので、何やら罪悪感が湧いた。きんぴらバーガーも美味しかった旨を伝え、私はお詫び代わりにと頂戴したクーポン券を財布に仕舞い込んだ。

 明日も来よう。今日ほど混んでなければいいけど。

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