ゆめかわ♡わがままボディの最強☆マシュマロ女子!襲来

高松たかまつさーん!」

 その無闇やたらと甲高い声で名前を呼ばれた瞬間、げっ、と顔が歪んだ。なるべく平静を装い、振り返る。

「今度のプロジェクト、久しぶりに一緒だよね? 楽しみ〜!」

 赤岩唯あかいわゆい。こういうのを“ゆめかわいい”と称するのだろうか。くるっくるにウェーブさせた茶髪をカチューシャで留め、花柄のドルマンにフレアスカートを合わせていた。顔は丸に近い楕円で、体型も何やらふくよかだが問題はそこではなく。

「ねぇどうかな? やっぱり最近の流行は白系だと思うの、でもね、わたしとしてはハデ系の……」

「わ、わかった赤岩さん! また後で、ね?」

 貴重な昼休みを奪われてはたまらない。私は話を遮り、その場を去った。

「うん! じゃあまたね〜! プロジェクトがんばろー!」

 脳天気な声が追いかけてくる。私は大きな溜め息を堪えきれなかった。


 赤岩唯。絶えず赤ん坊みたいな笑顔を浮かべては場の空気をまったく読まず、鉄琴みたいな音の冗長なテンポで誰彼構わず話しかけてくる女。人懐こいのに掴みどころがなく、それでいて緊張感が欠落しているマシュマロの擬人化みたいな女。自分を妖精さんだと思っている疑惑のある女……。


 散々な評価を下してしまったが、私は別に赤岩唯を嫌っている、というわけではない。プロジェクトが決まってから彼女を観察するようになった。彼女は社会人としてはそれなりに優秀だ。部下もいれば上司もいて、私が言うのもなんだがソツなく仕事をこなしている。私が無意識に抱いていた苦手意識も、思えばそういう勘違いから来たものなのかも……。

「ねぇねぇ高松さん、下のお店の新作ショコララテ飲んだ? あれすっごく美味しいの! わたしあんなの飲んだらまた太っちゃうかも〜そうだ! 高松さんにも買ってきてあげようか⁉」

「いっ今! 今先方にメール打ってるから!」

 ……やっぱり苦手かもしれない。


「はいこれっ」

 ようやくメールを打ち終えた私に、見慣れた図柄のカップが差し出される。振り返ると、赤岩唯の笑顔があった。本当にショコララテを買ってきてくれたのか。しかも格好を見ると、彼女は退勤寸前だったようだ。礼を言い、タブを起こしてラテを飲む。甘くて温かくて、染み渡る。

「……おいしい」

「そっか。良かった! じゃあまた明日ね〜」

 ばいばーいと手を振って、彼女はオフィスを出て行った。

 なんだか肩の力が抜けてしまった。不思議と距離が縮まった気がする……ラテを喉に流し込みながら、私はぐるりと肩を回した。

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