罪
「罪の匂いだ」
喫茶店の
「罪なの?」
私は問う。
「そうではないと?」
彼女は問い返す。お芝居の男役の
「――いいえ。たしかに罪だわ」
私はちいさく
「ただ、
「成る程」
彼女は珈琲のカップに
「貴女はやはり優しい」
「からかうのはよして。貴女だって、その罪からひとを救おうとしているじゃない」
「……そう言われると、返す言葉もないのだけれど」
彼女は困ったように頬を掻き、それから珈琲の残りを飲み干すと、近くにいた店員を呼びつけた。二言三言耳打ちをすると、店員は驚きの表情とともに奥へと引っ込んだ。
この店の店長が、息子の難病を治す為にやくざ者と繋がって野球賭博をしている、という噂は九割がたの確率で
自首をすれば、店長の罪も軽くなる。皆にとって損のない取引というわけだった。
程なくして、店長が姿を見せた。親か
「私は探偵ではありませんから」
彼女は笑って、しかし数秒のちには真剣な面持ちに戻った。
「しかし、どのような理由があっても罪は罪です。然るべき裁きと罰を受けなくてはなりませんわ」
店長は項垂れて、何度も首肯した。
店の前には警察の
「罰を受けるかしら」
「店長が?」
「えぇ。厳しい罰を」
「さぁ……詳しくはないけれど、そこまで重い量刑にはならないのではないかしら。情状酌量というやつね」
ちゃっかりとお代りした珈琲を飲みながら、彼女は笑う。脅かさないで。文句をつけようとする気分も、解れるように霧散していった。
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