少女狙撃手
「痛っ……!」
「自業自得でしょ。我慢しなさい」
狙撃手のくせに頭を出すなんて。技術は良いが、心構えがなっちゃいない。わたしはピンセットで、消毒液を染み込ませた無菌綿をソフィアの傷口に押し付けた。
小口径高速弾だ。動いたヘルメットを目がけて撃ってきたらしい。耳の下に裂傷を負っただけで済んだのは、もはや奇跡としか言いようがない。
「これでよし」
わたしはガーゼと包帯をソフィアの首に巻き付け、エマージェンシーキットに蓋をした。ソフィアはえへへ、と無垢な笑顔をわたしに向けた。
「ありがとね、カーラ」
戦場だろうが構わず、ソフィアは子どものように笑い、怒り、泣いては喜ぶ。弱冠18歳の若さで軍学校からヘッドハンティングされてきたという彼女は、経験や知識が未熟な部分を、その圧倒的なまでの実力でカバーしている。わたしは彼女の狙撃術を見て、ようやく「百発百中」という言葉がただのものの喩えではないことを知った。
彼女は凄い。たった一丁の狙撃銃、たった一発の弾丸で、戦局をまるごと変えることができる。
空は暗く、しかし依然として砲声と銃声は止まない。野営用の寝袋に包まったソフィアに容態を訊いておいた。
「うーん……まだ弾が掠ったところがほんのり熱い感じかな……撃てないってことはないけど」
「ダメ! 感染症とか発熱とか中毒とか、リスクは山ほどあるのよ! しばらくは大人しくしておきなさい」
「はぁい……」
不服そうな返事を漏らし、ソフィアは眠りについた。
その夜中、わたしたちの野営地に伝令が来た。
朝が来た。トラックに積み込む間も一切起きなかったソフィアは、射し込む朝日で目を覚ました。
「……撤退? まだやれるのに」
「怪我が治るまで狙撃手なしでやれと? それに」
頬を膨らませているソフィアの額に、わたしは自分のそれをくっつける。
「……熱、出てる。安静にしなさい」
「うぅん……」
渋々納得した、という様子で、ソフィアは再び目を閉じた。
到着した地で、わたしたちは別れた。情が移るのを防ぐためだ。ソフィアはぐずったが、最終的には承諾したようだった。別れ際、怪我が治るまで銃は撃つな、と言い聞かせた。
数ヶ月のち、わたしは両国間の休戦協定締結と、少女狙撃手への勲章授与を知った。
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