Shoot it Now!

 すがのりの朝は早い。こんなふうに、プレハブ仕立ての自宅にナマリ玉を叩き込まれることから始まったりする。花火のような音で目が覚め、それが銃声だと気付くまでに要した時間は1秒足らず。すぐに飛び起きて、タンスの陰に身を隠した。

 スカートの内ポケットから、ポリマーの9ミリ拳銃を引き抜く。引き金をハーフコック、スライドを引いて初弾を装填。同時、プレハブのドアが蹴破られ、けたたましい銃声が響いた。散弾銃だ。

「小菅! 出てこい! 」

 誰が出て行くかよ、と毒づいて、規子はすぐさま引き金を引いた。3発、確かな手応え。隙間から覗き見ると、プレハブの入口で男が血を流して倒れていた。

「このアマ! 」

 仲間がいたらしい。だが動揺し、チームワークに乱れが出ていた。それを逃さない。連続で、目標の胴体ボディに命中させる。メタルジャケットの9ミリ弾がめり込んだ男たちは、悲鳴をあげて、あるいはあげずにぶっ倒れる。

 ストライカー式のトリガーフィールは独特だ。慣れるまでは時間がかかるが、規子の場合は慣れてからクセになった。この銃はフルサイズに比べて少なめの8連発。スライドはアルミで、銃本体の軽さも相まって扱いやすさは随一だ。

「畜生ーっ! 撃て、撃てっ」

 散弾銃がいななく。着弾したタンスに孔が開く。規子はその間にベッドの陰へと持ち場を移した。弾倉交換。銃火の位置から敵の場所は割り出せる。銃だけを出し、断続的に撃つ。悲鳴。銃声が止む。

 既にプレハブの内装はズタボロだ。窓はすべて割れている。リノリウムで覆われた入口の床には、規子が倒した男たちの血が拡がっていた。

 規子は唇を舐め上げ、不敵に笑んだ。姿勢を低く、ベッドの脇……敵の死角に這いつくばり、隙を窺う。

「くそっ……なんて女だ」

 血の海を踏みつけながら、最後の一人が侵入してきた。よもや拳銃1丁を相手にここまで手こずるとは思っていなかっただろう。規子は腕が立つ。対するこいつらは、持っている銃だけは一丁前だがやりかたが素人だ。普通は爆弾で建物ごとふっ飛ばすか、さもなくば燃やすべきだ。反撃の猶予を与えた時点で勝ち目はない。

 最後の男はライフルだった。セミオートだが大口径で、威力は絶大だ。弾速も速い。うまくやらねば危ない。規子はするりと、ベッドの上の枕を引っ掴んだ。

 そのまま投擲する。

「っ! 」

 反射的な銃撃。ボルトが後退するその時間で充分だった。


 2発、吠える。男はライフルを取り落とし、崩れ落ちた。後には、鈍い血と硝煙の匂いが燻っている。

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