週末だけの

 運転席で、豊原とよはら菜緒なおを待つ。

 私は色気もへったくれもない、勤務先指定のスーツのままだった。菜緒にはこのほうがいい、なんて生意気を言われたこともある。溜め息を吐いた。菜緒とは2年近くの付き合いになるが、ウィークデーの接触はほぼない。

 雨が降ってきた。フロントガラスを濡らす雨滴を眺めながらハザードを焚き、菜緒が通う大学の前の幹線道路で暇を潰す。


 5時限目が終わり、菜緒が校舎から出てきた。辺りはもう暗くなっているが、彼女は迷わず校門から出てきて、一直線に私の車に向かってきた。ドアが開き、車内灯が点く。

「――行きましょうか」

 いかにも女子大生、といった風貌の、チュニックとロングスカートを合わせた、シンプルながら華のある服装の菜緒は、さっさとシートベルトを締めて発車を促した。


 知り合った当初の菜緒は女子高生だった。マッチングアプリで年齢を偽っていたのだ。数年来付き合った恋人と別れたばかりで、やや自暴自棄になっていた私は、大した確認もせずに菜緒を押し倒してしまった。

「実はわたし、女子高生なんですよね」

 獣のように求め合った翌朝、その言葉と共に鞄からセーラー服と学生証を取り出されたときは背筋が凍る思いがした。

灯里あかりさん、確か公務員でしたよね?」

 これがバレたらヤバくないですか? 高慢にそう脅す菜緒に、私は簡単に屈した。

 以来、私たちは週末だけの関係を続けている。


 都心から1時間あまり、民家もまばらな山間部に、防音個室のスイートルームを兼ね備えた高級ホテルがある。聞けば菜緒の親戚が経営しているホテルだとかで、彼女は年パスを持っていた。これにより、二人部屋なら半額で泊まることができる。

「私車停めてくるから。先に部屋行ってて」

「はぁーい」

 気のない返事ののち、ぶらぶらとフロントに向かう菜緒を見送る。ハンドルが重く感じる。証拠を残したくないので、カーナビを取っ払っていた。そこまでしなければならないなんて。弱味を握られた大人なんてものは、子どもが想像するよりずっと弱い。そして、その弱味というやつも案外簡単に握ることができるのだ。

 駐車場のエレベーターでいつもの階に向かう。いっそ絞め殺してやろうかと思うときもある。しかし、私にそこまでの度胸や頭脳はない。体格なら菜緒のほうが一回り大きいのだ。簡単に逆転される。


「じゃあ、今回もお願いします」

 下着を脱いだ菜緒が、事務的なまでの手つきで私の体をまさぐっていく。

 週末だけのいびつな関係。脅し脅され成り立つ関係だった。

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