有給のススメ
「いやぁ〜とてつもなく良いよ、有給取って私服で乗る新幹線はさぁ」
『アンタ凄いわ、この繁忙期に……』
「こんなド平日に新大阪行きの切符買って乗るとね……なんかさ、周りがキラキラ輝いて見えるの! 富士山とかもう、一瞬なのにダイヤモンドみたいに綺麗だった! 」
『……幻覚でも見えてんじゃないの? 』
親友の冗談に、
「でもマジでハンパないよ、いっぺん有給取って旅行とか行きなよ、
『はいはい。もう休憩終わりだから、また後でね』
梓の声は疲れ果てていた。かわいそうだなぁと思う反面、自分もつい昨夜まではあそこにいたのだと思うとゾッとする。
いわゆるブラック企業ではない、と思う。現に有給を取れる。しかしながら、同僚からの「休むなよ」という同調圧力を感じないことはない。同僚圧力、なんつって。
新大阪駅を出る。迷う迷うと言われていたが、わりとすんなり地上に出られた。行きはよいよい帰りはこわい、なんてことにならなきゃいいけど、と流しのタクシーを拾い、予約していたホテルまで向かう。関西弁は怖いイメージがあったが、運転手のそれは思ったよりも柔らかく、温かい。車中で観光名所について教えてもらう。
「道頓堀はいっぺんは行っといたほうがええやろなあ。泊まりがけですやろ? ほんなら、地下鉄であちこち巡らはるんが効率も良うてええわ。新世界のほうなんかは歩くだけでもおもろいさかい……せや、ビリケンさんや! 通天閣行くんやったら外されへんな……」
その他、昔ながらの串カツ屋さんだのあべのハルカスだのと、いくつか観光地について訓示を受けた。絵里は深い感謝を述べてタクシーを降りた。
「さて……」
予定では2泊3日だが、運転手が言っていた場所だけでも巡りきれるかどうか。下町観光ながら、見どころがいっぱいだ。とりあえず一日乗車券を買って……。
絵里は、充実した3日間を過ごしたのであった。
「いやぁ〜……どうよ梓ちゃん。仕事進んだ? 」
「お・か・げ・さ・ま・で・ね! 4人でやるタスクを3人で回すハメになってそりゃあもう捗りました! 」
「そういうんはなあ、ハナっから『できません』言うて断ったらええねん」
「当てつけみたいな関西弁やめろ」
「そうだ、豚まんおいしかった? お勧めされたから買ってみたんだけど」
「おいしかったけど、アンタはアレ持って新幹線乗ったの? 」
「それが何か? 」
「……」
「梓も今度行こうよ、大阪! わたしUSJ行ってみたくてさ〜」
「はいはい、考えておくわよ」
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