秘密
「
社長はいつも完璧に仕事をこなす。てきぱきと指示し、タスクを瞬時に片付け、自他に厳しくキビキビ動いては業績を上げる。それでいて、社員のことは第一に考えている。
「はい! 既に手配済みです。伊豆でしたよね? 」
「その通り。仕事が早くて助かるわ」
「畏れ入ります」
ぺこりと頭を下げる。ハイヤーを頼んだ
うーん、とひとつ伸びをして、梶社長がこちらを振り返った。
「今日はここまで! お疲れ様、西谷さん。上がっていいわよ」
「はい! お疲れ様です! 」
時計を見ると、終業にはいい時間だった。私もデスクから立ち上がり、身体をほぐしながら社長に訊ねた。
「社長は帰られないんですか? 」
「少しやり残したことがあってね……キリのいいとこまでやっておきたい」
「えー……最近ずっとじゃないですか。たまにはお休み入れないと体に毒ですよ? 」
「ふふ……ありがとう。でも今は大事な時期だもの。手は抜けないわ」
梶社長はお茶目にガッツポーズを作って見せた。
「それでは、お先に失礼しまーす! 」
「気を付けてね」
……というやりとりを交わして僅か数分。私は忘れ物を取りに、再びオフィスへと舞い戻った。
「えへへ、忘れも…あれ? 」
真っ暗なオフィスに社長の姿はなかった。代わりに、社長室から明かりが漏れていた。ここに社長が? そっと扉を開く。
「……! 」
私は、そこで信じられないものを見てしまった。
社長の背中がぱっくりと割れ、中から複雑怪奇な機械腕が何対も伸びているのを。梶社長が心底リラックスして、機械腕で淹れた紅茶を飲んでいるのを。よく見ると、社長の足元に車用のオイルが置いてあるのを。
すっかり腰が抜けた私に、社長は気付き、振り返る。
「あら、西谷さん」
「ご…ごめんなさ……」
「もう帰ったのかと思っていたわ」
軋む腕。
「見かけで判断するな……とはいっても、そりゃ驚くわよね」
器用に伸びて、オイル缶の蓋を開ける。
「でも――」
紅茶とオイルを口と背中で飲みながら、社長は言った。
「悪くないものよ。サイボーグ化手術は」
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