新章 夢

ある日不思議な夢を見た。

その日は中学3年、15歳になった誕生日で、両親や学校の友達に沢山祝ってもらった記憶がある。


嫌に明確な夢。夢っていうのはすぐに忘れてしまったり、小学校のときの友達と今の友達が一緒の空間にいることもあるような非現実的なもの。私もその日以外に見る夢はずっとそんな感じだった。だけどその日の夢だけはあまりにクリアで印象強かった。今まで1日たりとも忘れたことは無い。というより忘れることが出来ない。


私は海の中にいた。あらがってもあらがってもどんどん自分の体沈んでいってしまう。口からは泡ぶくがどんどん出て体から酸素が無くなっていく感覚があった。

(もう死んじゃう)

そう思った時に体の全部の感覚がなくなった。水の中に沈んで行く感覚も、酸素が無くなって苦しくなる感覚も、もう死んじゃうと思っていた感覚も急になくなった。


そうして誰かが話しかけてくるのがわかった。視覚も聴覚もないはずなのにその人の声は完璧に聞き取れた。


「死に……あなたは……20さ………」



その日から私は毎日この夢を見るようになった。英語の単語を覚えるために毎日単語帳を開くように、毎日同じ夢をみるから完全に脳に記憶されてしまった。あまりに毎日見るから、今となっては次にその人が言うことがわかるようになった。



そんな悪夢が毎日私を襲う。だけどそれを忘れられる瞬間がある。彼のことを考えると全てを忘れられる。小学校の時からずっと気になっていた彼のことを。


「…裕太ぁ……」


涙が次から次に溢れてきた。

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