5.試し斬り #とは

ストーリー5


木々の間に柔らかな木漏れ日の落ちる。

木々が開けた広場をつくるその中央では酷く傷付けられた木々が真ん中辺りからボッキリ折られている。

ダレットの言う試し斬りに持ってこいという穴場、続・魔王城と共に町の周辺から見えていた荒々しい岩山、その麓の森へとオレ達は来ていた。

早速オレは適当な木を選んでフランベルジェを構える。

『大剣の心得』、更にその派生『ツヴァイヘンダーの心得』というスキルを修得し準備万端なオレは浮き足立っていた。

いざ…!


「おい、サクト。

どこ向いて構えてやがる?」


おっと。

なんとも悪い間で話しかけてくるものだ。

オレはひとまずフランベルジェを降ろし、ダレットに答える。


「試し斬りするから的に向かってるんだよ!

見りゃわかるだろ。」


「ハッハッハっ!

おい、サクト。獲物はそんなんじゃねぇぜ?

ってか、あんま無駄に硬いもんに打ち込むなよ?刀身が痛むからな、ド素人。」

「…うす」


と、それよりもダレットの言葉に疑問符が浮かぶ。

獲物??


ダレットはその疑問にストレッチをしながらなんでもないかのように告げる。


「的はフォレストウルフの亜種モンスター、グランドウルフだよ」


は?


と、声を出すことさえ出来なかった。

唖然。

亜種、種族単位でネームド化された強力なモンスター。

それが亜種モンスターだ。


「おいおいおい、待てよ!そんなの聞いてねぇぞ?!」

「聞いてなくたって、幻獣帝の庭に踏み込んでだから、だいたい察しがつくだろ。」

「ここってまさか幻獣帝のダンジョンか?!」


ヤバい。

幻獣帝モルディア。バケモノ揃いの跡地周辺においてすら別格の存在。冥君ラグ、真竜姫ルーイ、キングファーザー・エルディーノの3人と幻獣帝モルディアからなる四天王に調停者ネアを加えた5人がこの世界の頂点に立つと言っても過言ではない。それ程のバケモノ。

またエルさんは旧魔王城最後の魔王がモルディアとも言っていたか。


「なんだ知らなかったのか、サクト?

このグレイスロック周辺が幻獣帝のダンジョン。

で、そっちの続・魔王城がキングファーザーとそのファミリーの居城。

あんま城には居ねえらしいけどな。

あとは中央闘技広場とその地下のルーイ道場が真竜姫の、その横の洞窟から続く地下異空間、『調停の冥府』が冥君の縄張りだな。」


ダレットがざっくりと四天王達のダンジョンの解説をする。

ところで今まさにその四天王のダンジョンにいるのですが?


が、モルディアは自分のダンジョンを多少荒らされようとも気にしないのだとか。

ダレットが言うには、この世界で通貨となるDPを稼ぐには2通りあってモンスターを倒すか売買等の対価として得るか。

そのうちモンスターを倒す方法には自分で直接倒さなくても、自分のダンジョンで野良モンスターや冒険者が倒れることでも手に入るらしい。

だからモルディアやラグは自分のダンジョンで程々にモンスターを倒してくれる冒険者は歓迎なのだとか。

他の2人、ルーイ道場はそもそもダンジョンというよりはルーイとの決闘場であり、普通は特に殴り込みをするメリットもないから冒険者は来ない。あとたまに催し物が開かれたりするらしい。

一方、エルディーノのダンジョンは彼のファミリーの住処でありモンスターなどいないため、キッチリ防衛線を引いている。無闇に侵入すれば初っ端から思いっきり迎撃されることになる。


「ん?そう言えば調停者っているだろ?

ソイツのダンジョンはどうなってるんだ?」


「あぁ、調停者サマな。

アイツはガサツだからな、ダンジョン運営はめんどくせぇって言ってダンジョン持ってねぇんだよ。

だから四天王と同じくれぇ強えけど四天王に数えねぇんだよ。

ところで…、」


ダレットはそこで一旦言葉を切ると、歪な装飾の施された突撃槍ランスをスキルで出現させて構える。

アレがダレットの試したかった武器とやらか。

それより…


「話の途中で悪いが」


ワイバーンか!!


「グランドウルフだ!」


なんだよ、期待させやがってちくせう。

って、そんな冗談言ってる場合じゃない。

今のオレのレベルでフォレストウルフの攻撃なんて喰らったらひとたまりもない。


「ああ?なんだよビビってんのか、サクト。

安心しろ、オレがしこたまデバフぶっかけて弱ったヤツを寄越してやるよ。」


ダレットはそう言うと、大きくランスをように構える。


間違ってる。

少なくとも普通のランスの使い方としては。


本来、騎馬の速度での一撃必殺に特化した武器で2m近くにもなるそれは、簡単に振り回して使える武器なんかではない筈だ。

が、それはあくまで普通のランスの話である。

ここ異世界。

装飾部から赤く発光したそれは異様な推進力で振り抜かれ、ダレットに差し迫ったグランドウルフの一団を吹き飛ばす。


「チッ、ヤッパ大剣のようにはぶった斬れねぇか。

オラ!サクトコイツはお前がやれ!」


ダレットはそう言うとランスで思いっきり叩き伏せたグランドウルフをランスの先で器用にトスし、グルンと身体を一回転させたフルスイング打ちのめし、こちらにぶっ飛ばす。

ボロ雑巾のようにされたソイツは、だがヨロヨロと立ち上がると躊躇なくこちらに襲いかかってくる。

流石は四天王のダンジョンに住む亜種モンスターと言ったところだろうか。

オレはグランドウルフの攻撃を軽くイナして反撃の機を伺う。


「っ…!!」


が、そう上手くいかなかった。

予想以上に強力だったグランドウルフの攻撃をなんとか弾いて、後ずさる。

デバフを喰らおうが変わらぬ重撃。瞬く間に追撃へと繋ぐスペックは凶悪なまでの高レベルモンスターの証。

一瞬遅れてフランベルジェで迎え撃とうとするが、それより早くグランドウルフは横から現れた青い槍に貫かれる。


「大丈夫ですか、マスター。

拙が盾となり攻撃を捌きますので、マスターはトドメをお願いします。」


アマルギアはオレとグランドウルフの間に割って入ると掌を突き出すようにして構える。

そしてそこからノーモーションで突き出されたアマルギアの槍は、再度突撃を仕掛けてきたグランドウルフを掠めるようにして捉える。

が、グランドウルフの勢いは死なない。

回避したも同然、アマルギアの攻撃など意にも介さず獰猛に牙を向く。

アマルギアはそれに真正面から向き合うとノーモーションで胸の辺りから再度槍を生成、見事に決まったアマルギアのカウンターだが、それでも倒しきることの出来なかったグランドウルフは間合いを詰めてアマルギアへと肉薄する。

アマルギアはそれに、先程よりは短く生成した槍を両手に構えて応戦し、足などからも槍を生成させる変則的なカウンターを織り交ぜてなんとかグランドウルフの攻撃を捌く。


「今です、マスター。」


アマルギアはそう言うと大きく飛びかかってきたグランドウルフをバシャリと流体化して躱す。

虚しく空を切り裂いたグランドウルフへとフランベルジェを思いっきり振り抜く。

衝撃。

身体を大きく半回転程させて叩き込んだ一撃はそのままグランドウルフを沈める。


ようやく1匹を倒しきったオレはダレットの方を確認する。

いつの間にか武器を巨大な篭手なような武器に変えていて最後のグランドウルフを殴り飛ばしているところだった。

オレが弱った1匹を倒す間に5、6匹まとめてか…。

そんなことを考えているとダレットの方から何かが飛んでくる。

慌ててキャッチする。

ポーションか。


「おら、それで回復しとけ。

次の群れがお出ましだ。

今度はもうちょい体力残してやるから踏ん張りやがれ」


オレはそのポーションをそのままアマルギアに喰わせると、フランベルジェを握り直す。

耳をすませばモンスター達の唸り声が聞こえる距離まで迫っていた。

唸り声…、いや、悲鳴??


「うわあああああ!誰か!助けてええ!!」


泣き叫びながら男が一人茂みを掻き分けて現れる。その背後に襲いかかるグランドウルフの群れ。


「な!人!襲われてんのか!」

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