3.変態とメイド
「むむ?!これは中々の上客の匂いがするぞー?!!」
「マスター、ここはダメです。店を変えましょう。」
店の奥から目を輝かせてやってきた店員をアマルギアが切って捨てる。
「いやいや、折角教えて貰えたお店なんだから、ちょっとくらい我慢してくれ…、
気持ちわからなくはないけど…」
ため息一つ、いや2つか。
変態店員とアマルギアに。
オレ達はアマルギアの服を買うため、適当に武具屋とか巡ったが、半ば予想はしてたものの、それらしいものが手に入りそうな店は見当たらなかった。
そんな中、とある武具屋の店主が優秀な服飾屋がいるから、この町の少なくとも武具屋とかじゃわざわざ服は売らねぇよと、教えてくれたのがこの店だ。
ついでに中々の変わりモンだがなと注意もあったが、まあそんな感じはする。
この人ヤバい。
なんか物理的ではない意味での腐った匂いがする。
「んー!中々の素材だけど、こんな素っ気ない服じゃあねぇ!
もっと可愛く子はそれ相応の格好をしなくちゃ!
ってより、これじゃ孤児とか奴隷とかからの転生したてって感じ??
あ!そんなこと言うべきじゃないよね、ごめんごめん。
深くは聞かないよ!
んー、それより、これかなー?
それともこれかなー?」
グイッ、とやってきたその女性店員は、ぐへへー、可愛いねーとか言いながらアマルギアを眺めまわす。
アマルギアはそれを微動だにせず、首だけこちらに向けて告げる。
「マスター、拙の知識ではこれは非常識な行為だと認識していたのですが、誤りだったのでしょうか?」
「いや、その認識は特に間違ってない。が、我慢してくれると助かる。
それよりもオレ達これだけしか手持ちがないんだが…、」
店員はクイッと開いたコアメニューを覗き込む。
残りDPを確認すると、うんうんと頷く。
「わかる、わかるよ〜。
ちょっとお財布キツめでも、それでも女の子にはできる限り良いものを着せてあげようって心意気!
ハァー、きゅんときちゃうなー!
それならお姉さんも、ちょっとオマケして良いものを見繕って上げちゃおうかなー!
ふふん、シンデレラも顔負けの大変身だね!
これなんてどーおー?
ささっ、向こうの試着室でぇ〜、」
店員はフリフリのメイド服を片手にアマルギアを店の奥へ連れ込もうとする。
絶対にアレは普段着ではないだろうに。
だが、アマルギアはメイド服にサッと手を伸ばす。
「いえ、ここで大丈夫です。」
「へっ?ここで?着替える、の…??」
アマルギアさん?急に爆弾投下するのやめて貰えます?
この変態店員ですら思わず固まってますよ?
が、アマルギアはそんなの気にした風でもなく服をドロりと呑み込む。
そして瞬く間にふわりとアマルギアはメイド服に着替えていた。
「え…?
あー!
なるほど、そういうスキル持ちね!
お姉さんビックリしちゃったぞー!
それにしても似合う似合う!中々いいじゃん!」
「如何でしょうか、マスター?
と言っても、もうこれを吸収してしまいましたのでこの服に決定です。
お支払いをお願いしてもいいでしょうか?」
店員など眼中にないかのように毅然とした態度でアマルギアが言う。
捕食する前には一言断るんじゃなかったのか…、
あと店員さん、クンカクンカしてるんですけど、この世界はお巡りさんっていないの?
っと、それよりも似合ってるとは言え、メイド服なんかでアマルギアは良かったのだろうか?
オレはアマルギアの様子を伺うが、こういう時のアマルギアの表情は読み取り難い。
「拙は構いません。
拙の役目はマスターにご奉仕することですから寧ろ最適かと。」
アマルギアはそこで「そして…」と言葉を切るとその無表情で店員を見る。
「拙を着せ替え人形のようにするつもりでしょうが、そうはさせません。
拙はマスターの所有物ですから、拙を玩具にしていいのはマスターだけです。」
「えっ?!何々?あなた達ってそういう関係なの?!ちょっとお姉さん気になっちゃうじゃないーー!!」
おい、ヤメロ…。
って、店員さん?ハァハァ言いながらグイグイ来ないでくれません?
オレはさっさと店を出ようとなんとか支払いを済ませる。
「ああそうだ、そうだ。まだ名乗ってなかったよね!」
オレ達が店を後にしようとなった段階で、我に返ったように変態店員が手をポンと打つ。
「私はメニカ。良かったらまたおいでよ。
君たち中々面白そうだしさ!
特にそっちの君。君のその服もまだ元の世界のものだろう?
いいのを仕立ててあげるからさ。」
メニカと名乗った変態店員は柔らかな笑顔になる。
が、オレはゴスロリメイド感が出てしまったアマルギアをチラリと見やる。
「えーと、まあ、もし気が向いたら…」
「君、何か絶対誤解してるね?
私だってもう少し可愛らしい服を色々着せたら、本当にオススメの普通の服を紹介するつもりだったんだからね?」
甚だ誤解してるわけではないな。
だがまあ悪い人ではないってのも確かだろう。
「じゃあ、その時はお願いします。
あ!オレは水瀬サクト。
で、こっちのがアマルギアです。」
「サクト君にアマルギアちゃんね。うん、良い名前だね。
君たちにいい冒険があることを祈ってるよー!」
メニカさんはそう言うと店の外までオレ達を見送ってくれて、元気よく送り出してくれた。
▼▼▼
色々買い物を終えた、と言うよりも資金が底をついたオレ達は、結局再びスナキャット狩り。
昨日と違うのはどことなくアマルギアがやる気満々だってとこだろうか。
ということで戦闘をアマルギアに任せてみた。
「では、戦闘開始します。」
アマルギアは身体を低く構えると、スナキャットに向かって走り出し、間合いを詰めていく。
スナキャットもそれに合わせて駆け出し、スナキャットのが一歩早く体当たりを仕掛ける。
スナキャットが弱いと言っても一応は肉食モンスターでその爪は中々に鋭い。その爪がアマルギアに差し迫る。
バシャリ、と水飛沫が飛ぶ。アマルギアは接触する部位をスライムの状態へと戻し、無駄のない動作で回避。
アマルギアの後ろ側へ回り込む形になったスナキャットへ回し蹴りをお見舞いする。
スナキャットの顔面で激しく水しぶきが上がり、アマルギアはダメ押しだとばかりに2発程水を浴びせかける。
そしてスナキャットから距離をとったアマルギアはオレの隣へと戻ってくる。
「マスター、問題発生です。
拙は有効な攻撃手段を持ち合わせていませんでした。
何か武器を要求します。」
デスヨネー。
色々と派手には見えたが、実際はスナキャットに水を浴びせかけただけだ。
ダメージなんて殆ど入ってない。
オレはコアメニューからサバイバルナイフを取り出す。
これって実はオレにとっても唯一の戦闘手段なんだが…、
ドロり
アマルギアはサッとオレの手の上に手を被せナイフを吸収する。
…知ってた。
でも、確認して欲しかったヨネ!
「形さえインストールしてしまえばこちらのものです。『
サッと構えたアマルギアの両手にはそれぞれにナイフが握られていた。
そんなこともできるのか。
そして再度突進していったアマルギアはかなり強かった。
脇腹の辺りに食いつきにきたスナキャットを先程と同じようにスライム化して躱す。
そして隙を晒したスナキャットへナイフへと変化させた手刀の一撃を叩き込んで大ダメージを与えた。
それからも元々のスライムの特性スキル『流体』を駆使しスナキャットの攻撃を躱して、カウンターに『複製』で作り出したナイフで切りつける。
その見事な立ち回りでアマルギアは瞬く間にスナキャットを仕留めてみせた。
「スライムって意外と強いんだな…。」
思わず漏れたオレの感想に、アマルギアは何か逡巡したようにこちらを見つめる。
「スライムはそこまで強いモンスターではありません。
種族的には最弱と言って過言ではないでしょう。
拙が強いのです。
些かの誤謬なく。」
またコイツは…。
「と言いますのも、拙は魔導書やマジックドール、メニカさんの服を捕食した結果、多くのマナを獲得しました。
特にメニカさんの服には高ランクのスキルが付与されていましたので。
今の拙は流体を
ので、間違いなく強いのは拙です。」
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『眷属ステータス』
名前:アマルギア
種族:スライム
HP:112/145
スタミナ:108/121/125
MP:43/102
物理攻撃:64
物理防御:82
魔法攻撃:73
魔法防御:93
敏 捷 :88
スキル
[スライム基本系統]:吸収B、複製C、マナウォーターC+、流体B
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そう自信満々に言うアマルギアのステータスは確かに強かった。
ってこれ、オレより強くない?
それからのアマルギアの活躍は目覚ましかった。
昨日は安全のため、姿を見つけたら隠れてやり過ごしていたポチウルフを見つけると、なんの躊躇いもなく突進し、あっさりと倒してしまっていた。
それでオレも頑張って何か倒しますか!
と言う気持ちには何度かなったのだが、唯一の武器がアマルギアにとられてしまったオレにはできることなど何も無い。
おいそこ、ニートとか言うな。
なんか、一応はモンスターテイマーとその眷属モンスターなのだからパワーバランス的には問題ないのだろうけど、女の子に守られて生きていくってなんだか嫌だな。
あとは現実問題、ダンジョンを攻略する上でいくらんなんでもこのままのステータスでいる訳にはいかない。
アマルギアが活躍する度に、明日こそはオレのために武器を絶対に買うのだと固く誓う。
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