2.美少女錬成
「全く…、昨日はお前に振り回されてばっかだったな…。」
オレはエルさんの酒場の一角でコアメニューを開きながら、スライムをつついて遊んでいた。
スライムもとい、今はアマルギア。
開かれたメニューの眷属ステータスを眺める。
『眷属ステータス』
名前:アマルギア
種族:スライム
HP:23/23
スタミナ:18/18/18
MP:6/6
物理攻撃:9
物理防御:12
魔法攻撃:6
魔法防御:8
敏 捷 :11
スキル
[スライム基本系統]:吸収C、複製D、マナウォーターD+
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アマルギア。
昨日、ドリンクの精製という芸当をやってのけたコイツにオレが思わず付けてしまった名前。
アマルガム、柔らかいなんとかそんなような意味で、水銀の合金だった筈。
オレの中ではなんとなく錬金術のイメージがあったその言葉をもじってやって付けてやった。
と、そんなことはどうでも良くて、名前を付けてやったということが重要だった。
ネームド化。
眷属モンスターにとって名前を貰うというのはそれだけ重要なことで、テイマー側にもそれだけメリットがある。
昨日ほとんど戦いに参戦していないアマルギアが成長してるのはこのせいだ。
だが良いことばかりでもない。代償がある。
DPを、それもかなりの量をごっそり持ってかれたのだ。
畜生ォ、持って行かれた…!!
おかげで折角の金稼ぎも虚しく一瞬で一文無し。
ってより、ネームド化に必要なポイントが通貨として使われるポイントと同じって中々トラップ過ぎる気がする。
そこんとこの調整どうなんですかねー、神様?
とまあ、夕飯も食えなくなったオレ達は大慌てで数匹のスナキャットを狩りに行く。
そしてなんとか酒場で一番安い、ご飯と味噌汁セットにありつけた。
因みに味噌汁のつゆだけはアマルギアのおかげでおかわりし放題だった。
具は無理だったようだが構わん。
明日からもおかわりし放題。
ご褒美になにか美味い飲み物でもあげねばならんな。
とまあ、一夜明け、馬小屋の藁の中で朝を迎えた。
ただまあなんと言うか、ぶっちゃけこの世界に馬なんて殆どいない。魔法やらスキルやら使える上にステータス補正もかかるから馬に頼る必要がない。なのに何故馬小屋があるのか。
簡単だ。なんかそっちのが異世界っぽくね?と言うことらしい。
そんな理由で(魔法で温められた快適な)風が吹きさらし、藁(に似せた柔らかいクッション)の上でボロ雑巾(風のふわふわの毛布)を被って、馬小屋(という体の無料休憩所)で寝る異世界初心者の気持ちにもなって欲しい。ありがとうございました!
そして一夜明け、無けなしの金を握ってとりあえずエルさんの酒場に情報収集がてらやってきたのがつい今しがた。
「おや、昨日のお兄さん、サクト君と言ったかな?いらっしゃい。」
「ああ、おはようエルさん。
今日はこのドリンクをくれないかな?
実はそんなに金がなくてこんなのしか頼めなくて申し訳ないけど」
「構わないよ。それより昨日はそれほどスナキャットがおられなかったのかな?
彼らを狩ればそれなりに稼げたと思うのですが?」
オレはその言葉に「ハハ…、」と苦笑しながらアマルギアを机の上に乗せてやる。
「コイツに名前つけちゃったんですよ、アマルギアって。
ネームド化するのにポイント持ってかれるって知らなくて…、」
「ああ、そう言うことでしたか。
そう言う失敗を犯す初心者は多いですから、一言忠告をいたしておけば良かったね。
それよりスライムテイマーとは中々に珍しい。
それもネームドとは…、」
エルさんがしげしげと見つめると、アマルギアは恥ずかしそうにススっとオレの手の影に隠れる。
「それよりもコイツ、中々良いスキル持ってるんですよ!」
オレはエルさんから出されたドリンクをそのままアマルギアに全部飲ましてやる。
アマルギアはそれを飲み干すと、一息ついたかのような息、というか風を吐き出す。
それから昨日と同じようにグラスへとドリンクを放出し、一杯に満たしてみせた。
「おお、これは!なんとも、なんとも。
ちょっといいかな?」
マスターはそう言うとドリンクのグラスを手に取り、興味深けに眺める。
「『鑑定』!!」
マスターがスキルの発動を宣言する。
鑑定。名前の響き的にアイテムの種類とかを見極めるとかそんな辺りだろうか?
ところでやっぱりこの世界でも鑑定はチートか、必須スキルみたいな扱い?
とか、考えていると結果が出たようだった。
「サクト君。これは中々に大発見だよ。
この子が出したドリンクは、『マナドリンク』というアイテムに変化している。
通常のドリンクの効果に加えて、若干マナも回復する効果が得られるようだ。
スライムにこんな能力があるなんて私も知らなかったよ。
おおっと、そうだ、こういうのは情報アドバンテージになるから無闇に触れ回ってはいけない、と忠告も必要かな?」
エルさんはニッコリとアマルギアを撫でてやる。
それからエルさんはまたオレへと向き直る。
そしてズイっと近づいて耳打ちするかのように声のトーンを落とす。
「そして、ここからが内密なんだが、サクト君。
私と取引しないかい?」
エルさんの持ちかけて来た取引とはこうだった。
まず、オレはエルさんへと定期的にアマルギアの作るマナドリンクを納品する。
エルさんはそれに見合った額で買い取ってくれる。
それに加えて、オレが他の店にマナドリンクを納品しないという条件で、エルさんは自分でマナドリンクを精製しないし、他の人にもその製法を口外しないというものだった。
もちろんオレが自分で使うための分や知り合いとかにちょこっと分けてやるのはOK、という中々に破格の条件だった。
後半の条件に関してはエルさんが提示してくれなければ、オレは全然気付かずにエルさんに美味しい所だけ持っていかれてしまうとこだった。
と、語ってみた所でこれが本当に破格の条件かとかオレ知らない。だってこんな取引とかしたことないもん。
オレはその条件で了承する。
だってよくわかんないんだもん。
それになんかこう、内密の取引ってカッコイイからもうOKとしか言えないよね。
それを断るとか…、あ、このエルさんが譲歩を多分?して来てくれてるとこをだが断る!って選択肢もあったのか…。
でも、流石に人間関係と言うかオレの評判が悪くなりそうだからナシで。
ということで、了承。
新種のアイテムということでマスターは「初回限定の特別報酬だよ」と言って結構な報酬をくれ、殆ど一文無しだったオレの懐は一気に潤うこととなった。
そこでオレは金稼ぎに予定していたスナキャット狩りをやめ、午前中の間はこの異世界で必要になりそうなものを買い揃えることにしたのだ。
必要なものってのはまあアレだ、異世界気ままショッピングして目に入ったものだよ!
ついさっきまで金なかったのに流石に皮算用とかしてないから、何が必要そうとか考えてないだろ、普通。
ということで、まずは魔道具店とかか、面白そうなのは。
▼▼▼
ズラリと並んだ魔道具。棚に並んだポーションや魔石が放つ妖しげな光に魔導書が不気味に照らされる。
ここは跡地周辺の魔道具店。
決してテーマパークのお土産ショップとかではない。
オレはズラリと並んだ魔導書の中から水魔法に関するものの中から適当に見繕うことにする。
折角魔法を取得したのだ、もうちょっと実用的なレベルにしたかったのと、どんな魔法が存在するのかリサーチするのもためになるかと思ったのだ。
軽く眺めただけでも学ぶことがあって勉強になる。
例えば、魔法は応用の仕方が大事。
水魔法なら単純に大量の水を呼び出して洪水のように攻撃する方法、これは敵への指向性も低く、加えて、ただ敵を押し流すだけで終わってしまうことになり、マナ消費に見合わう効果は得られない。
だが的を絞り水流として射出することにマナを注ぎ込めば無駄な消費を抑えられる。更に土魔法などと合わせ物理ダメージ向上を狙えば攻撃力は数段跳ね上げられることができる。
他には周囲に霧状に水魔法を放出する方法、これは敵への攻撃が目的ではなく、水属性のマナを周囲に張り巡らせ、炎属性の魔法などを抑え込みつつ、こちらの魔法のサポートとして使う。
そして水魔法で何より重要なのが、状態異常。水属性のメリットは広範囲へ状態異常をばら撒き易い点にあるというのだ。
それを読んだオレは早速試してみようと魔導書といくつかの状態異常を付与するポーションを手にとる。
支払いをしようとオレはレジを探して辺りを見渡す。
そこでオレはいつの間にか姿を消していたアマルギアが人形の上に鎮座していることに気付く。
可愛らしい少女の人形だ。
「なんだお前、これが欲しいのか?」
コクコク。
オレは「ったく、我儘だな」と値札を確認してみる。マジックドールと書かれたそれはそこそこ高かった。
だが今は臨時収入が入ったばかりだ。金はある。
ただお前こんなのどうするんだよ。
あ、食うのか。
オレはアマルギアがしでかすであろうことに興味が湧いてきて、その人形を買うことにした。
また一文無しのギリギリ生活に戻ってしまうだろうが、元はアマルギアが稼いでくれたような金だし、また明日にでもマナドリンクを納品すれば収入はあるから気にすることではないな。
その人形をレジまで運ぶのが面倒だったオレは店主を呼んでそこで会計をすることにした。
店主も若干扱いに困っていた人形なのか少し安くしてくれた。
そしてそれをどう扱うのか興味津々で支払いが終わった後も見物を続ける。
まあいいか。
オレはアマルギアへと頷く。
「やれ、アマルギア。」
ドロリ。
人形を頭から多い尽くしたアマルギアはそのまま全て喰い尽くす。
そして床にポトンと収まったアマルギアは、直ぐにドロりとその液体のような身体を上に伸ばし、先程の人形の形を形成する。
「やっぱりか。やるな、アマルギア。」
予想通りだ。
人形の形態をとったアマルギアにオレがうんうんと頷いていると、アマルギアが口をパクパクさせる。
「う…ああ、うぅ、…お、おほ…えにあすぁり、こーえーぇす、ますあー」
ペコりと腰を折って一礼するアマルギアに今度はオレが口をパクパクさせる番だった。
「お前、喋れるようになったのか!」
オレは予想以上の結果に満足する。
「むふー」と得意気に胸を張ってみせるアマルギア。
まるで褒めて褒めてと尻尾を振る子犬だが、その身体には元々人形に着せられていた必要最低限の衣類しか身につけていない。
その、アレだよ、アレ…、ちょっと刺激が強すぎる。
そのため急遽アマルギアの服を買いに行くことにした。
決してオレが恥ずかしくてアマルギアを直視出来なくなったからとかではない。
なお、店主から面白いものを見せて貰えたと、魔導書をサービスしてくれた。
ただ割引いてくれたお金でポーションまで買ってしまうとアマルギアの服が買えなくなりそうなので今回は我慢だ。
オレは店を出ると服屋、は見つかりそうにないから武器屋とかにオーダーメイドか?とか考えながら辺りを見渡していた。
そこへアマルギアがくいくいっと服の裾を引っ張る。
チラッとアマルギアを見ると、オレがそのまま引っ掴んでいた魔導書を見つめていた。
まあ興味でもあるのかと、オレは何気なく魔導書を手渡す。
ドロり。
は?
バッとアマルギアを振り向くオレにアマルギアは事も無げに告げる。
「知識をインストールしました。言語を完璧に把握するために必要でしたので、やりました。
また知性が向上したため、マスターの本をダメにしてしまったことを理解し、多少反省致しておりますが、後悔するつもりは毛頭ありませんので悪しからず。」
「お、おおぅ。後悔は、しないのか…。」
「ええ、全く。
次からは一言断ってから食べることにします。
そうすれば反省も必要ありません。
それよりマスターは拙が喋れるようになって嬉しくはないのですか?」
こてんと首を傾けるアマルギアにオレは「くぅっ…、」と唇を噛む。
コイツ…。
言ってること滅茶苦茶だけどさ…。
だが、どうもダメだ。
今までもなんだかんだ可愛い奴めと思っていたが、それが女の子のしかも人形のようにというより、正に人形の可愛さを手に入れたのだ。
アマルギアは正真正銘可愛い奴になってしまった。
なんだか困ったことになる予感がするが、もう気にしないでおこう…。
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