実質まだチュートリアル

1.相棒GETだぜ!


世界の歪みが収まった時、オレは石造りの噴水の傍にいた。

辺りを見渡すと、西洋風の庭園というような様相で端にはいくつかベンチが設けられている。


これが噂の異世界転s…、

いや、これどっちかって言うとネズミとかが出てくるテーマパークとかじゃないかな?

あの黒猫、観光地化してるって言ってたけど、そう言う感じで?

しかもさ、ご丁寧にガラスの靴のお姫様でも住んでそうなお城と、びしょ濡れにでもなりそうな山付き。

舗装された道の脇には木造の家々と街路樹が並ぶ。

こちらはどちらかというと西部劇の街並みに無理やり石畳を引いたようなチグハグさだ。

それより、あるじゃん魔王城。跡形も無いんじゃなかったっけ?


まあ何より先に情報収集。

そして、それから…、それから??


それからって、なんだ?

これからオレは、何をすればいい??

家、メシ、安全、強さ、武器、地位、金…、

なんだ、何が重要だ?この中で意味のあるものものは?その判断をくださないと、何が、何が重要か、先ずは………、情報!


オレは手近な酒場へと駆け込む。

ファンタジー異世界なら情報が集まるのは酒場!って気がする!

雰囲気のある重そうな木製のドアを押してオレは中にはいる。

今は午後の昼下がりと言った時間で、酒場の中はチラホラと何人かがゆっくり休んでいる程度、オブラートに言えば落ち着いてる雰囲気だった。

カウンターでビールジョッキを布巾で拭いていた初老辺りのマスターが「いらっしゃい」と声をかけてくる。


「オレを、助けてください!!」


バーン!!

オレはカウンターを勢いよく叩く。

…。

沈黙。

これはちょっと冷静になるね。


「な、何があったのかは知らないけど、とりあえずそこの席にでも座りなさい。

話はそれから聞くよ。」

「はい。」


オレは差し出された水を一息に飲み干すと、本題を切り出す。


「実はオレ…、っ!!」


実はオレはなんだっ!?違う世界で死んでここに転生してきましたって?バカか。そんなの狂人扱いされるに決まってる!


「実はオレ、えっと、めっちゃ遠い国から、あー、旅!旅してきてやっとここについたばかりでして…」

「ほー、この閉鎖国家アトラントに、遠い国から…?」


え?

閉鎖、国家…?

オレはサーっと血の気が引いていくのが分かる。


これってアレだろ、鎖国みたいなやつで、不法入国処すべしみたいなやつ。

いきなり極悪人からのスタートですか?


目の前の風景が段々遠のいていく中、小さくなった酒場のマスターが肩でクックッと笑うのが見えた。


「悪い悪い。いきなりからかってすまなかったね。

君も転生者なのだろう?

差し詰め、転生してきたばかりで右も左も分からないってとこではないかな?」


「え?あっ、はい。」


「ここはアトラント。街行く人々は大抵、君と同じ転生者だらけの異世界。

ここの世界の住人はということだね。

各言う私もその例に漏れず転生者だよ」




それからオレは注文したハンバーガーを片手にマスターからこの世界について色々な事を聞いた。

スキル、ステータス、モンスター、ダンジョン、etc…。

それから、ここの跡地周辺の街は、世界に2つしかない転生者が転生してくる場所の1つで、マスターも転生者にチュートリアル的なことをするのは密かな楽しみらしく、あまり関係なさそうなことまで教えてくれた。

例えば、今立っているのは『続・魔王城』で旧魔王城は本当に吹き飛んだらしい。

なんだ続って。

他にも下手に町から離れすぎるといきなり高レベルの魔物が出るから注意しろみたいな重要なアドバイスから、チョコミントアイスを常に常備しておくようにみたいな訳の分からないものまで教えてくれた。

どうやらこの異世界、チョコミン党以外絶対に許さないらしい?

そして…、


「そうだ、家!オレみたいな高校生とかの転生者はどんな所に住んでるんです?」


「そうだね、最初のうちは宿とかに泊まって

、私たちみたいな店を経営したりする者や大儲けした者は街に家を買うが、ずっと旅を続けて宿や野宿で過ごす者もいるよ。

そして、大半の者が『ダンジョン』を住処にしているね。」


「『ダンジョン』ですか…?」


「ああそうだね。所謂『ダンジョンマスター』ってやつさ。まあダンジョンが思ったよりも快適なものでね、それに中々便利なのなんだよ。

そして、数あるダンジョン候補地の中でも一等地中の一等地、ようこそへ。」


▼▼▼


爽やかな風が吹き抜ける草原。というよりは町の芝生広場、ってな具合か。

又は、触れ合い子供牧場。

オレは酒場のマスター、エルさんから、初心者用の狩場、と聞いて来たのだが、オレの異世界のイメージが音を立てて崩れ去っていく。

まあ上下水道完備はおかしいとか指摘されて、文明レベル落とされた異世界よりはマシだけどさ、これじゃほんとに中世異世界テーマパークだよ。


オレはため息1つついて気持ちを切り替える。

まずはエルさんから聞いたことをいくつか実践してみることにした。

手を掲げダンジョンコアを出現させる。

コアと一緒に現れたウィンドウにはオレのステータスとメニューが表示される。


『ステータス』

名前:水瀬サクト

種族:人

HP:27/27

スタミナ:17/18/18

MP:7/7

物理攻撃:11

物理防御:7

魔法攻撃:4

魔法防御:6

敏 捷 :8

スキル

[-系統]:-


---


紛うことなき初期ステータス。それよりここまで歩いてくるだけでスタミナ1減ってるよ、オレ。

まあいいさ。

誰だってそんなものさ。

そう言えばエルさんが転生者の平均初期ステータスが10って言ってたっけ?

いや、オレだって四捨五入したら平均10だな、問題無し。


「スライム召喚!!」


メニューのモンスター召喚のコマンドを試す。

ダンジョンコアが小さくポワっ輝くと、そこから小さな光の球が地面へと放たれ柔く光る。その光の中にはいつしか水色のぷにぷにがいた。

かの有名雑魚モンスター、スライムだ。


スライムが あらわれた!


その雑魚モンスターはオレに気付くとピョンと飛びかかってくる。


スライムの こうげき!


「おっと。」

ちょっと物珍しげに観察しようとしていたオレは慌ててそれを躱す。

一応こんな可愛らしい飛びかかりでも攻撃は攻撃、ダメージ判定アリだ。

それに雑魚雑魚言ってるけど、オレも紛うことなき雑魚だからな、洒落にならんかもしれない。


エルさん情報によると、モンスターは基本的に野良モンスターと眷属モンスターに分類される。

野良モンスターは自分が召喚したとしても襲いかかってくるのだという。

そしてもし言うことを聞かせたいのなら、


「テイム!!」


取得可能スキルという一覧から取得し、スキルを発動する。

名前の通りモンスターを捕獲テイムするスキルだ。

もちろん初級のテイムでしかないが、雑魚モンスター、スライムには十分。

すると脳内に単調な音声が響く。


『モンスター、スライムのテイムに成功しました。』


お?なにこれ、あなたの脳に直接語りかけています的な?

アナウンスさん、サンキュー。


コアメニューを確認すると眷属モンスターの中にスライムと項目がちゃんと増えていた。


『眷属ステータス』

名前:-

種族:スライム

HP:12/12

スタミナ:6/8/9

MP:0/0

物理攻撃:3

物理防御:5

魔法攻撃:2

魔法防御:6

敏 捷 :3

スキル

[スライム基本系統]:吸収D


---


初の眷属モンスター。

自分の指示を聞いてくれるモンスターだ。

コアメニューの召喚の欄には元々眷属モンスターという項目が含まれるが、そいつらはコストも少々高い上、自分のダンジョンの中でしか使役出来ないのだと言う。

そいつらを外に連れ出したい場合はそれ相応のテイムスキルが必要になる。

つまりモンスターで戦闘をしたいのならモンスターテイマーになれと。


「まあ、こんなもんか。なら次は…


『ウォーター』!!」


掲げた手の先からは魔法の水が放たれる。

ひゃっほう!流石、異世界!

こんなオレでもスキル取得するだけで、魔法が使えちまったぜ!

まあ、手で掬った水をかけるようなレベルじゃ戦闘で使えないけどな。

でも楽しいもんは楽しいんだよ!悪いかっ?!

とまあ、威力が低いのは、テイムでスキルポイントをかなりとられていたので初級Cランク魔法ですらない、初歩Dランク魔法に渋ったせいだろう、仕方がない。

やはり戦闘とかに使えそうなのは初級Cランクのスキルからって認識だろうな。

これもエルさんの情報通り。


「さてと!」


オレは先に試しておきたかったことを確認すると気持ちを切り替える。


今日の目標は今夜の夕飯代と、出来れば明日の分の食費、そして何より戦闘というものに身体を慣らして、この貧弱ステータスのレベルアップだ。

そしてゆくゆくは一国一城の主ならぬ、一ダンジョン一魔王城のダンジョンマスターとして、この転生魔王戦線の戦いに加わることだ。

まあ、地方ダンジョンでダンジョンマスターやって、ゆるゆる異世界暮しも悪くはないと思うんだけど、こっちの魔王戦線のがなんかワクワクする。

まあ戦いが余りにキツそうだったら逃げ出すとかもできるし、最終的に地方ダンジョンに逃げ出すとしてもここでステータスを鍛えておくことのは悪くないだろう。


ということで、当面の目標はダンジョンを攻略し、そこのダンジョンのマスター権を奪うこと。

その後ダンジョンの防衛や生態系の維持とかも考えないといけないが、まあ後回しだ。

今できるのはステータスの強化とスキルの充実くらいだろう。


思考をクリアにすると、無けなしの初期所持金で購入したサバイバルナイフを抜き放つ。


おい、そこ。オレのステータスで物理攻撃がちょっと高かったの、そのナイフのおかげかとか言うな。


コホン。


オレは早速、先程の水魔法でできた水溜まりをちゃぷちゃぷして遊んでいたスライムを連れて草原の先、エルさんに聞いたを探しにいく。


▼▼▼


「ふぃー、」


オレは木陰の岩に腰掛けて一息をつく。

エルさんに教えて貰ったカモモンスター、『スナキャット』を5匹倒し終えたとこだ。

ひとまずここまでの戦果の確認のためにメニューを開く。


『ステータス』

HP:18/37

スタミナ:8/15/29

MP:2/18

物理攻撃:18

物理防御:15

魔法攻撃:7

魔法防御:8

敏 捷 :13

スキル

[テイム系統]:テイム(C)、[水系統]:ウォーター(D)


---


ステータスが倍くらいに伸びてるな。

うん、大分身体の動かし方も慣れてきたな!



ドロップは『ふわふわ毛皮』4コとレアドロップ『小さな高飛車毛皮』1コ。

毛皮系のアイテムは日常品から防具まで幅広く使われる上に数も要求されるため需要が高めだが、上級者になるとちまちま狩って集めるのが面倒なアイテム。つまりは初心者の金稼ぎとして狙い目なのだ。


そしてなんとなくこの世界の仕様も分かってきた。

まずステータスは現在値/最大値という表示で、スタミナは現在値/現在最大値/最大値という表示。

結構厄介なのがスタミナの現在最大値というパラメータで、これが減ってくると単純にスタミナの最大値が減っている、という話ではない。

この減り幅=疲労として蓄積しているようなのだ。

まあかなり現実の感覚に近くて、ゲームとかでよくある瀕死でもいつも通り走れるということはない。あと、攻撃を食らったりすると地味にスタミナが削れたりする仕様付きだ。


次にアイテム。

この世界ではドロップアイテムは確定枠とレア枠で構成されるドロップリストから好きなものを選択するというものだ。

つまり低レア素材は確定枠として常に存在するので物欲センサーに悩まされることも無く、簡単に集められる親切設計。

狩れば狩るほど目的のアイテムが確実にゲットできる。


さてと、


エルさんから買っておいた回復用アイテム、ドリンク、要するにただのスポーツドリンクをコアボックスから取り出し、一口飲む。気合いを入れ直して、狩りの続きを…っと。

オレはドリンクを持った左手にスライムがぴょんと飛んできて何かアピールしているのに気付いた。


「欲しいのか?」


スライムの様子が気になったオレは試しにその容器ごとスライムの前においたみた。

するとスライムはぴょんと容器を身体で包み込むとドロりと溶かして吸収する。


「は?いや、おい待て待て待て!!

それオレのドリンク!

ちょ、普通そういうのちょっとぺろぺろとかじゃねぇの?!!」


予想外に全てを持っていってしまったスライムにオレは思わず掴みかかる。

スライムは慌てた様子でジタバタともがいて右往左往してその青い身体をぷるぷるさせる。

そして諦めたかのように大人しくなると、ピュッとオレの顔に水を吐き出す。

至近距離からの放水。

オレはそれを躱す間もなく頭から被ることになった。


「おい、てめぇ…、

いい度胸じゃねぇ…か……、あれ?

これもしかして、さっきのドリンクか?」


口の辺りに垂れた液体をペロリと舐めるとドリンクの味がする。

それに答えるようにスライムがぴこぴこ上下に揺れていた。

首を、振ってるのか?

オレはコアメニューからコップを購入して、手元に呼び出す。

ピュッとそこにスライムが液体を放出する。

オレは念入りにそれを眺め回してから、グイッと一息に飲み干す。

…。


「お前すげぇな!!

これ中々便利なスキルなんじゃねえの?

もしかして他のドリンクも飲ませてやれば出せるか?!

もー、最高だなーー!!」


見事なまでの手のひら返し。

オレがスライムを抱き上げると、スライムはスっとオレの手から逃れ、頭の上に着地する。

そしてドロりとオレの顔を覆ったかと思うとそのままボトリと地面に着地する。

さっきの、ドリンクを浴びたベトベトが無くなってる。

オレは足元のスライムを見つめる。

誇らしげに胸を張っているといった所だろう。

おいおい、なんだか無性に可愛くなってきたな!

これは今までのメジャー雑魚モンスターから可愛いオレの相棒に格上げだ。

今夜はコイツに何か良い物でも奢ってやるか!



それよりもそうだ!いつまでも名無しじゃ可哀想だし、コイツに名前でも付けてやるか…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る