冬の夜

 鼻腔が凍てついてしまうほどに深く息を吸い込むと、乾燥した冬の大気の奥に、何ともつかない独特の香しさがあって、夜道を歩く間に目を閉じながらその香りを楽しむのが好きだった。


 溶けかけの雪が踏み均された薄氷に、アスファルトがところどころ覆われている。それらも車道のあたりではほとんど解けてしまっており、濡れたアスファルトが街灯の光をチラチラと照り返していた。氷の上に体重をかけるとつるつると滑ってしまうので、慎重に踏む場所を選びながら歩いていると、どうしても足元に視線を落としてしまいがちになってしまう。


 深く息を吸い込んだ。


 次いで、フーッ、と勢いよく息を吐きだすと、真っ暗な夜空に、まるで汽車の煙のように白い息が濛々と立ち上っていく。


*


 帰路は心が穏やかになる。寝静まった街の中はシンと静寂に包まれていて、何だが自分が主人公になった気分になり、何となく車道の真ん中をスキップしながら歩いていく。コンビニで買ったスフレプリンはささやかな自分へのご褒美で、帰ってぼうっとテレビを見ながらそれを食べているひとときを思い浮かべ、心が弾んでしまう。


 夜が深くなっていく。


 家々の明かりがぼんやりと遠のいていく。辺りを包む闇が次第に温かく私を包んでくれているようにも思えてくる。

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