夜行バス

 窓ガラスを結露が一面覆ってしまっているから、窓の外は人や景色の輪郭さえも見えない。なんとなしに指でなぞると、ガラスの表面に一層濃い闇色の轍ができて、水滴が指先に纏わりついた。


 指でいくら擦ったところで窓の外はあまりにも暗く、ただ街灯の光や車のヘッドライトが規則的に後方に過ぎ去っていくのが見えるだけだ。走行音でうるさい車内はほとんどそれ以外の音が聞こえないが、その奥から、微かに乗客たちの疲れた寝息だけが聞こえ続けていた。ペットボトルの水を飲むと、生ぬるい水が喉を通っていく。


*


 バスを下りると、すぐさま凍てついた空気がダウンコートを貫いて体を冷やしていく。乾燥しきった空気に鼻腔の奥がヒリヒリと痛むのを感じながら、バスの貨物入れからキャリーバッグが下ろされるのを待つ。これから飛行機に乗る。ふと空を見ると、真っ暗だったはずの空は、いつしか徐々に白み始めている。

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