声
普段は明るいぐらいの時間なのに、今日はどこか暗く落としたような空の色で、特に街灯も灯ったままなのは思い出す限り記憶にもなく、珍しくて少し驚いてしまった。空を覆う雨雲か陽光を塞いでいて、朝日とも夕日ともつかない青みがかった淡い光だけがこちらに染み込んできて、ぼんやりと明るい。信号機の鮮やかな光もどことなく霞んで見える。
人気も車通りもない高架街道を歩きながら、早朝の冷気が髪の間を通り抜けると、その度にわずかに湿り気が残る。通りをだいぶ進んだ辺りで、歩道にビルの側面が接続していて、そこから自動ドアーをくぐると、ちょうどそこから新都駅西側の駅中モールに入ることができる。
*
まだ開店前で柵が降りている駅中のモールを素通りしながら歩いていくと、いつしか徐々に周りを歩く制服姿の人影が増えてきた。視界の端の時計に目をやると、ちょうど電車が到着した頃合いで、おそらく新都線からの通学者だった。私は専らモノレールで通学しているので、モノレールの駅から降りて新都駅まで少し歩いたのちに、彼らとはこの辺りで合流する。同じ都立高の制服を纏う面々は、一様に同じ方向を目指して歩いていくので、自然と私もその人波に加わっていく形になる。都立高口は新都駅の北側ビルにあるので、連絡橋やエスカレータを乗り継ぎながら、そこまで歩いていく必要がある。けれどそこから出れば、あとは駅前広場と高架街道があるのちに、ほど近くエスカレータを介して都立高の南棟ゲートに直接接続しているので、モノレールや新都駅から通っている生徒は皆このルートを通るのが通例になっている。
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連絡橋を渡っている最中に、見知った背中を見つけた。紺みがかったようにも見える黒髪、すらりとした姿勢の良い後ろ姿――銀目。私は彼女の元に追いつくため、少し早足に歩く。
「ぎん、めっ」
朝だからか、あまり力が入らず、声が震えてしまった。彼女は振り向かない。
声が小さくて聞こえなかったのだろうか。それとも……。
「あっ……えっと……」取り繕うように思わず声が漏れる。そのまま、次の声がかけられないままに、互いに数歩進んでしまう。振り向かない彼女の背後で、私がそれを追って歩く。胸のあたりがぎゅうっと締め付けられるような感覚。声が出ない。我知らず顔がこわばっていく。
話しかけなければよかった。
声を掛けなければよかった。気付かないふりをしていればよかった。そのまま、いつものように教室まで行ってから挨拶すればよかったのに。ごめんなさい、ごめんなさい、誰かに対して――自分に対してか――許してほしい。許してほしくなってしまう。周囲の視線が気になる。誰も見ていないはずなのに。寒気が首筋から、背中から、だんだんと全身に伝っていく。
足が重くなる。彼女の背中から距離を取ろうとする。
*
「ぎんめっ!!」
銀目が振り返った。こちらを振り向いた怪訝な顔が、私に気づくなり、ぱっと笑顔になった。「あっ、おはよ! エンタン!」聞き慣れた声。凍えるようだった全身に、締め付けられるようだった胸の中から、ぬくもりがじんわりと広がっていく。「お、おはよ」強張った頬や泣きそうな目元を見られたくなくて、もごもご挨拶を返すなり、私は我知らず顔を伏せてしまった。
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