孤独
うたた寝から目が覚めてしばらくは体が重くて、なんとなくそのまま椅子に腰かけた格好でじっとしていた。換気のために開けていた窓の網戸から外気が緩やかに流れ込んで来ていて、窓の外はもう太陽が右手――西側の山々の稜線にかかるぐらいの夕暮れだった。
眠りに落ちてからだいぶ時間が経ってしまったかもしれない。眼下を左から右にかけて下っていく石段街は、眠ってしまう前ともほとんど相変わらずぞろぞろと賑わっている。銀目と澄は連れ立って石段街に出掛けたまま、まだ戻っていないようだった。
夕暮れになって、窓から光もあまり差さなくなってしまい、部屋は薄暗く静寂に包まれている。三人で借りた旅館の一室――そこそこ広めな畳敷きの部屋の中央に横長のテーブルがあって、今はその上に澄が持ってきた観光雑誌が開きっぱなしになっていた。障子戸を仕切りにフローリングのこちら側は大きく貼られた窓に面していて、そこから温泉街が一望できるようになっている。ふかふかとしていて座り心地が良い椅子が二つ並んでいて、そこでしばらくぼんやり黄昏ているうちに眠ってしまったのだ。
そう――午前の行軍でだいぶ疲れてしまった私は、澄と銀目が石段街に繰り出すのをよそに、今日の残りは旅館で過ごすことにしたのだった。旅程はあと二日あるし、別段今日無理に観光しに行く必要もない……。二人もそう言っていたし、石段街にはまた明日出掛ければ良いのだ。とりとめなく考えを巡らせていると、なんだかまた眠くなってきてしまった。まぶたを閉じ、またしばらく静寂に耳を澄ませる。
*
目を閉じたままぼんやりしていると、不意に遠くの方から音の割れたメロディが流れ出した。風に乗って音が大小しつつ、しばらく耳を傾けていると、それがシャボン玉飛んだの旋律だということがわかってくる。時報だろうか、シャボン玉飛んだの時報なんて初めて聞いたけれど、物寂しいようなこの種の時報の音色には聞き覚えがあって、なんとなく懐かしく感じて聞き入ってしまう。
*
やがて曲が終わり、長く尾を引くような余韻がしばらく空気を震わせていたが、それも消えてしまった。再び訪れた静寂はなぜだか以前のそれよりもひどく耐えがたいようで、けれどどこか愛おしくも感じてしまう。
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