◇238◇剣を探す者

 「さてと、もうひと眠りするかな」


 うーんと伸びをしつつイラーノが言った。

 朝食のパンが届くのにも少し早い時間だ。僕も眠い。


 《森にエルフ共が来て、何かを探しているがどうする?》


 「え……」


 「主様、どうしました?」


 ジーンだ。エルフって誰? 探している物ってきっと剣だよね? という事は、昨日僕達が森へ行ったのを見ていた? 剣を探しているという事は、ルイユが言っていた教団?


 「ルイユ、森にエルフが現れたって、ジーンが。行った方がいい?」


 実害がないなら行かない方がいいかもしれない。行けば剣があると言っているようなものだから。


 「え? エルフ? なんで?」


 「そうですね……」


 そう言いつつ、ルイユがガバッとドアを開けた。そこには、驚いた表情のロドリゴさんが立っていた。


 「盗み聞きですか?」


 「森にエルフが出たんだな?」


 ルイユの問いに、ロドリゴさんはスルーし僕に聞く。

 それにそうだと頷いた。


 頷いてから思い出したけど、エルフは見つけたら捕らえる事になっていたんだっけ? 事を起こしていた者は、コーリゼさんを追いかけていた魔女の仕業のせいで、今回のエルフじゃない。

 でもコーリゼさんを追いかけていた理由は剣を壊す事。今回現れたエルフも同じ目的だと思われる。


 「お父さん、待って! エルフを捕らえに行く気?」


 背中を向けて去ろうとするロドリゴさんに、イラーノが問いかけた。


 「お前達は、ここにいろ。森には来るなよ!」


 「待って! 相手は魔法を使うんだよ?」


 「わかっている」


 「行かないで頂きたい。相手に森に剣があると教えてしまう事になります」


 ロドリゴさんは、くるっとルイユに振り向いた。


 「あぁ。見つからなかったら街に来るのではないか? エルフは、街に入れるのだぞ? ここで魔法を使われたら困る。私は、ギルドマスターだ。エルフが現れたと聞いて放っておけない。今は、アベガルも滞在しているしな」


 「聞かなかった事にすれば宜しいではありませんか。本来なら知らない内容です」


 「そうもいかない」


 「相手は、魔女側のエルフですよ。平気であなたを殺しにかかります。剣を探しているという事は、少なくとも魔女が復活した事を知っているはずです。彼らは、ずっと私達を見張っていたはず。街まで入って襲って来なかったのですから放っておいて大丈夫でしょう」


 ルイユがそう説明すると、ロドリゴさんは突然ルイユに近づいた。


 「どういう意味だ? 魔女側のエルフとは、彼女に命令を受けていたエルフとは違うのか? 魔女が封印された剣を探しているわけではないと?」


 「………」


 しまったぁ。教団の話はロドリゴさんは知らないんだった。


 「いいか! 俺はあの時お前に行ったはずだ。許さないと! まだ何を隠している? 事と次第では、この場で斬る!」


 ガシッとルイユの胸倉を掴みロドリゴさんは言った。本気だ!


 「待って! ロドリゴさんやめて!」


 僕が叫ぶもロドリゴさんは、ルイユから手を離してはくれなかった。

 ルイユとロドリゴさんは、やや暫くにらみ合うが、ルイユが口を開く。


 「……魔女に酔狂する教団があるそうです。魔女が封印された今、剣を探すとなるとその者達でしょう」


 「きさま!」


 投げ飛ばす様に、ルイユをロドリゴさんは離した。


 「そんな大事な事をなぜ隠していた。おかしいと思ったんだ。モンスターのボスなどに預けるなど何かあるってな!」


 何となく気がついてはいたんだ。


 「クテュール! ボスも元に行くぞ」


 「え? キュイの元が一番安全だよ!」


 「何が安全だ! ルイユ! 本気で死ぬ気があったというならそこへ連れて行け!」


 「ロドリゴさん!?」


 「お父さん! ルイユはともかく、俺達をもっと信用してよ!」


 「信用しているさ。けどお前達はまだ若い。経験が浅いんだよ」


 真面目な顔でロドリゴさんは、イラーノに返した。


 「俺も本気を見せるからお前も見せろ! この意味わかるな、ルイユ」


 静かな声だけど、凄く怖くその声は響いた。それにルイユが頷いた。


 「わかりました。お供します」


 「え? ルイユ?」


 「主様、ご一緒願います」


 「本気なの?」


 僕が訪ねると、ルイユは頷く。

 一体、ロドリゴさんは、剣をどうする気なんだろう? 持ち帰る気? それとも破壊する気なんだろうか?


 「お、俺も行く!」


 「イラーノは、ここにいるんだ。いいな」


 そう言うと、ロドリゴさんは僕の手を掴んだ。そして、部屋の外へと引っ張っていく。


 「え? ちょっと、ロドリゴさん!」


 力じゃ敵わない。しかもルイユは止めようとしない。ロドリゴさんに協力するつもりだ。

 つまり、ルイユはロドリゴさんがしようとしている事がわかったって事?


 「待って! 何をする気なの?」


 ルイユは、どうやら本気の本気に、ロドリゴさんを怒らせたようだ。もう止められない。

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