◆237◆驚きの回復方法

 ルイユは、僕が殺すのをためらわないと思っていた。それは、今までがそうだったから。儀式の為に死ぬ目に遭っていた。

 でも、それぐらいしないと強くはなっていけなかったって事だよね。

 だとしても、なぜこんな残酷な方法を……。


 「そんな顔をしないでください。私は最後に、あなたに出会えてよかったと思っているのですから」


 「ルイユ……。絶対に見つけよう!」


 「はい……」


 「あの~。もう入っていいかな?」


 びっくりしてドアを見れば、イラーノがそっとこっちを覗いていた。


 「いつからそこに!」


 「えっと……何か真剣に話し合っているから声を掛けづらくて……。それにしても血の復活が儀式になっていたなんて……あれって拷問に近くない? 俺は二度としたくないけどね」


 うん? 二度としたくない?


 「イラーノ、血の復活をした事あるの?」


 「え? いや、ないよ。俺、モンスターじゃないし」


 「だよね?」


 でも、まるでした事があるような言い方だったんだけど?

 似たような事をしたのかな?

 チラッとイラーノを見れば、少し動揺しているような気がする。


 「ねえ、イラーノ。二度としたくない事って何?」


 「え? いや別に……言葉の綾だから。気にしないでよ」


 うーん。イラーノが知っている血の復活って、助ける行為だよね? それがどうして拷問って捉える事になるんだろう?


 「イラーノは、主様を助けるために、自分を犠牲にして下さったのです」


 「ちょっと、ルイユ!」


 「え? 犠牲?」


 僕は驚いて、イラーノを凝視した。


 「どういう事?」


 「もうルイユは……クテュールには言わないでって言ったのに。君が斬られて瀕死になった時の事なんだけど、自分を傷つけて君を回復したの」


 うん? どういう事?


 「つまりですね」


 イラーノの言葉に、ルイユが状況を説明し始めた。

 盗賊に襲われて背中を斬られ意識を失ったすぐ後に、盗賊が放った矢がイラーノを射た。その矢を体から抜いた時、イラーノはオートヒールで回復。そして、僕も回復した。

 但し、本の少しだけ。

 オートヒールのヒールの量は、回復される側の魔力の量で決まるらしく、イラーノは量が多いので一気に回復するが、僕は量が少ないので回復もほんの少しだった。

 でも希望が見えたのだ。これしかないと、イラーノが自分からやると言って、深い傷を負わせる為にルイユが彼を斬った。

 それを繰り返し、僕は助かったわけだ。


 「それで、拷問……。ありがとう、イラーノ」


 「ううん」


 少し照れたようにイラーノは首を横に振った。

 前にルイユには伝わっているって言っていたけど、こういう事だったんだ。

 僕を守るって言うけど、もう十分だと思う。


 「でもそれは、もうしないでね」


 「大丈夫ですよ。ミサンガは私が外せますから」


 普通にヒールで治せるからとルイユは言った。


 「じゃ、俺も暴露しちゃうから。あの毒って一時的なもんでしょ?」


 そうイラーノが、ルイユを見て言った。

 毒? あ、イラーノを斬った時にナイフについていた毒の事?


 「クテュールが、ルイユが俺を殺してでも助けようとしたと思っているようでだからさ」


 「え? 違うの?」


 「わかっていたのですか……。あれは強い毒ですが、イラーノはそれでは死なないとわかっていたから使ったのです」


 「え? あれ? 一時的に毒状態になるものではなかったの?」


 思った答えと違ったのか、イラーノがルイユに驚いて返す。

エルフには効きづらいって事なのかな?


 「主様、怒らないで下さいね」


 チラッと僕を見てからルイユはそう言った。

 そして、こう言ったんだ。


 「イラーノには、私の血が混ざっているのです」


 ――と。

 これには僕だけじゃなく、イラーノ本人も驚いていた。

 どちらかと言うと、怒るのは僕じゃなくイラーノじゃないの!?


 「彼を吸血する時に、私の血を分け与えました。そうしなければ、イラーノは死んでいたので……」


 「俺を助けてくれたの?」


 僕はずっと勘違いをしていたのかもしれない。

 ルイユは、僕を助ける為に他を犠牲にすると思っていた。彼女もそう言っていたから……。


 「ありがとう。ルイユ」


 「ありがとう。俺、モンスターの血も混ざってるんだ……ちょっと複雑」


 イラーノがそうお道化てみせた。

 口では僕優先だからイラーノは見殺しにすると言っていたけど、最初からその気はなかったんだね。


 「イラーノを失えば、主様が生きて行くのが辛くなるのはわかっておりましたので」


 「ルイユ、ありがとう。でもルイユも失えば生きて行くの辛いからね! ずっと傍に居て!」


 「はい。死ぬときは一緒です」


 「……セリフだけ聞いていると、二人はまるで恋人同士だね」


 とまたお道化てイラーノが言った。

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