◇236◇ルイユがついた嘘

  そう言えばルイユは何しにここに来たのだろう。


 「ねえ、ルイユ。僕に何か用?」


 「もうすみました」


 もしかしてロドリゴさんに、話そうと言いに来たの?

 確かに安全な場所ではあるけど……誰が奪いに来るんだ?


 「ねえ、剣って誰も奪いに来ないよね? 見つからなかった時にキュイにお願いしてもよかったんじゃない? 今更だけどさ」


 「いえ。おりますよ」


 「え? 誰? まさか、アベガルさんとか?」


 奪うかもしれないと思ってる?


 「いえ。人間ではなく、エルフです」


 「え? なんで?」


 「魔女に賛同したエルフが教団を作ったようなのです。魔女は死んだ事になっておりますが、その者達は魔女が封印された事を掴み、チュトラリーの本当のカラクリに気がついたのです」


 え? じゃ、魔女を解放しに来るって事?


 「そんな大事な事を何故黙っていたの?」


 「アベガルやロドリゴ達に聞かせれば、絶対に自分達で剣を保管すると言うでしょう」


 「そうかもしれないけど、僕も今聞いたんだけど! キュイに預ける前に教えてくれても……」


 「ずっと考えていました。何故暫くチュトラリーと出会えなかったか。チュトラリーになった者は、私と出会う前に殺されていたのかもしれません。今回は、エルフではなく人間だった。だから彼らもチュトラリーを把握出来なかった」


 「ルイユは、そのエルフに会った事あるの?」


 ルイユは、ないと首を横に振った。


 「ありませんが、チュトラリーを批判する団体があるのを聞いたのです。もしその者達が、魔女の復活をつかめば必ず、我々を狙いに来るでしょう」


 相手はエルフ。コーリゼさんじゃ、奪われるって事か。

 そのエルフ達の目的は、魔女を復活させる事だよね。

 復活したけど再び封印されたとなれば、封印を解きに来る。

 まさかキュイに持たせているとは思わないだろうから、ルイユが次のチュトラリーと上手く出会えればって事か。

 本当にそれまで、封印って持つのかな?

 うん? あれ? 何か引っかかる……なんだろう?


 「あ! そうだ! ねえ、僕が死んだら加護の効果も消えるんだよね? つまり封印とかも消える?」


 「なぜ、そういう事は覚えているのですか……。そうです。装備品は、マジックアイテムではなくなります」


 「何故、僕にまで嘘をついたの? 剣だけの封印で、ルイユが次のチュトラリーと出会えるまでもつの?」


 「残念ながら持ちません。あの封印は一時的な物。主様に封印して頂けなければ、持って歩いている間に封印が解ける可能性がありました」


 「それを隠す為に、あんな事を言ってキュイに? それって僕が死ねば、キュイが危ないって事じゃないか!」


 僕はガシッとルイユに掴みかかって言った。

 ルイユは、困り顔で俯く。


 「キュイしか頼める者がいなかった……」


 「いなかったって……」


 「剣で私を刺さないという事は、結局前と同じ状況なのです。万が一、魔力がある者を依代にした場合、私達には勝ち目がありません。私のもう一つの役割は、血の復活で力をつけ、魔女を倒せるエルフがチュトラリーになった時に魔女を倒しに行く事だったのです」


 「ちょっと待って! エルフが主人だったら血の復活ってする機会なくない?」


 「あります。本来は、血の復活をする事により効果が発動するのです。ですからチュトラリーになった者は、私を探し出す。文献には、血の復活とは書かれておりませんが、私がいないと繁栄の儀式が出来ない事になっています」


 「それって、人間がチュトラリーにはならない前提だよね?」


 ルイユは頷いた。


 「エルフで解決させようと思っていました。ですが、人間やハーフもチュトラリーになってしまいました。しかも魔女を倒しに行く前に、封印が解けてしまったのです」


 「そっか。僕、人間だし頼りないし、相談するまでもないよね……」


 「違います! これ以上巻き込みたくなかったのです」


 「え?」


 「私は、儀式に必要なだけで、チュトラリーにとってそれ以上でもそれ以下でもありませんでした。ためらいもなく儀式の為に、瀕死の状態にさせられました。そういう仕組みなのですから仕方がありませんが。でもあなたは違った。私を助ける為に、血の復活をしてくれた」


 そりゃそうだ。儀式の為じゃなく、友達を助ける為に必要だったからなんだから。


 「なんでそんな仕組みにしたの?」


 「最終的に殺して頂かなくてはいけませんから……」


 そうかもしれないけど……。エルフってそういう事はためらいもなく出来る種族なんだろうか? そういう風には見えなかったけど。

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