◆223◆対立する二人

 「本当に手間がかかる人ですね。わかりませんか? これです」


 ルイユは、左腕を顔の辺りまで掲げた。手首には、魔力感知のミサンガがついている。


 「結界に入れるようになるマジックアイテムです」


 なるほど! これならつじつまが合う。

 そう思ってアベガルさんを見るも渋い顔をしている。

 なんかヤバい感じ? 大丈夫かな……。


 「やはり錬金術か……」


 そう言えば、錬金術を疑っていたっけ。


 「ケアリーヌ様の直伝です。わかっているとは思いますが、レシピは教える事はできませんよ。それに鑑定したところで、今の人間には鑑定は不可能です」


 「そう言う事か。二人が持っていたミサンガも鑑定では、マジックアイテムだと判定されなかった。それはいい。問題は、あの街に現れたモンスターだ! あいつにもつけたのか?」


 「つけましたよ」


 「お前! 少しは考えろよ! もし何かあったらどうするつもりだったんだ!」


 「それでもそうするしか手がなかったのです。主様を失えば困りますから」


 「困る? また新しいチュトラリーが生まれるんだろう?」


 「そうですね。でも、明日とか一年後とかの単位ではないと思いますよ。私も自害だけは許されていないのです。私が生きている間は、新しいチュトラリーは出現しません。まあ変な話、チュトラリーがいない間に魔女が復活すれば、どうにもならなかったって事ですが」


 「なんだその中途半端な仕組みは……」


 「中途半端ですか? これを行う事の凄さが理解できていないのですね」


 なんか言い合いの様になってきたんだけど、だ、大丈夫かな?


 「いや、確かに凄いとは思うが。ただ今回、いとも簡単に倒さなかったか?」


 「そうですね。私も驚きました。たぶん依代が人間だったからでしょう。魔法に馴染みが無い体だった。使いたくても、強大な魔力を使う魔法を使えなかっただけの事。そして、魔女を上手く縛る事ができた事で、成功できたと思われます。もし依代がエルフだった場合は、私は目覚める前に殺されていたでしょうね。感知していたようなので……」


 「なるほど。色々と偶然が重なって、勝てたという事か」


 アベガルさんが引っかかっていたのってそこなの?

 言われてみれば、倒すのを苦労したと言う話からすれば、すんなり行った。芝居じゃないとわかっていても、疑いたくなったって事かな。


 「一つ条件がある。もうモンスターに、結界に入れるマジックアイテムは絶対につけるな。あと、あのモンスターに付けた物は回収して渡してもらおう」


 「回収はしましょう。ですが、回収してもあなたに渡しませんよ。それより、二人から奪ったマジックアイテムを返して頂けませんか?」


 って、二人共睨みあってるんだけど……。


 「では、テイマーを消すのはなしになるがいいのか?」


 「私は別にかまいませんが。それでもし、主様がまたあのような事になればまた、あのようにお助けするだけの事です」


 「ちょっとルイユ! あれはダメ! もう絶対にキュ……モンスターを巻き込まないで!」


 ルイユに僕が言うと、ルイユだけではなくアベガルさんも驚いていた。


 「あれは、本当にルイユの独断だったのか?」


 「結局、何も信じていないわけ?」


 アベガルさんの言葉に、イラーノがムッとして返す。


 「アベガルさん。ルイユに裏なんてないよ。ただばれない様にしただけだから。でも優先順位が僕で、こうなっているだけ。あの時、あのモンスターには僕達を襲う意思はなかったから」


 「あぁ、そう言えば会話が出来るんだったな。あの時、何を話したんだ?」


 「何も。僕もあの時、ルイユが食べられたと思ったからね」


 「ほう。では何故、あのままモンスターを放置した。君なら従える事ができるのだろう? ルイユを食われたと思ったら憎いだろう?」


 僕は、アベガルさんの言葉に驚いて、アベガルさんを見た。

 もしあそこにいたモンスターがキュイではなく、知らないモンスターだったとして、ルイユが食べられたと思ったら僕はどうしただろうか?

 アベガルさんが言う通り、モンスターを殺そうとした? しようと思ったところで、僕には何も出来ないけど。


 「あなた、私の話しをちゃんと聞いていましたか? チュトラリーは、信頼関係で眷属にするのです。憎む相手を眷属にはできません」


 ルイユの言葉に、今度はルイユに振り返った。

 そっか。そうだよね。

 アベガルさんとルイユはまた、睨みあう様に見つめ合っていた――。

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