◇180◇ロドリゴの息子

 僕達は、ノラノラシチ街で一番高級な料理店に連れて行かれた。

 きっと、一介の冒険者なんて来る事がないだろう。


 「すご……」


 イラーノは、ボソッと呟く。

 うん。凄い。

 この凄い店の一室に入ると、やはりアベガルさんがいた。そして、もう一人ゼルダグさんもいる。二人共騎士団の格好だ。

 ロドリゴさんとアベガルさんは、握手を交わした。


 「突然押しかけて申し訳ない。アベガルです」


 「いえ。イラーノ達がお世話になったようで」


 二人共、にこやかだけど目が笑ってない。


 「どうぞ。お座りください」


 「では、失礼する」


 アベガルさん、ゼルダグさんと並んで座ると、アベガルさんの向かい側にロドリゴさんが座り、隣にダイドさん、イラーノに僕と座った。

 まずは乾杯と、イラーノと僕達以外は、お酒をたしなむ。


 「これは、美味しいですね」


 「この街の人達が作ったお酒です。売ってはいませんが、料理店でお出ししています」


 アベガルさんの言葉に、ロドリゴさんはそう説明した。

 知らなかった。お酒なんて作っていたんだ。

 そして、料理が運ばれ、僕達の前に置かれた。


 「温かいうちにどうぞ」


 ロドリゴさんは、そう言って料理に口をつける。

 お肉だ。一口サイズになったお肉に、フォークを刺すと抵抗なく突き刺さる。凄く柔らかそうだ。

 パクッと口に入れると肉が溶けた!

 はぁ。幸せ。


 「美味しいですな。それにしても勇敢な息子ですな」


 酒を一口ごくりと喉に流し込み、アベガルさんが言った。

 そうだった。アベガルさんが何をしに来たかを確かめないと。


 「ありがとうございます」


 「さすが、ギルドマスターの息子です。我々も驚きました」


 「驚いた?」


 何の話だと、ロドリゴさんがジッとアベガルさんを見つめる。

 まさかと思うけど、あの話をする気なんじゃ……。

 チラッとイラーノを見ると、顔を強張らせている。


 「おや? 聞いてませんか。武勇伝を」


 「武勇伝?」


 ロドリゴさんが、僕達に振り返る。

 何かあったのかという顔だ。

 まさかロドリゴさんもグルだと思っている訳じゃないよね?


 「ルイユと言う女が、モンスターを手なずけようとして、逆にやられましてね。そのモンスター、街の上空まで来たのです」


 「上空だと!」


 ロドリゴさんもダイドさんも驚く。

 結界をすり抜け、モンスターがやって来たと言う事になる。


 「えぇ。エルフ達の話だとモンスターのボスらしいのですが、大きな漆黒の鳥。果敢にも二人は最前線まで行きましてね……」


 凄い形相で、ロドリゴさんとダイドさんは僕を見た。

 二人は一度、キュイを見ている。僕の眷属だというのも知っている。

 まずい!

 僕は、だらだらと嫌な汗が流れた。


 「そこで、提案なのですが……」


 「提案?」


 ロドリゴさんが、アベガルさんを睨み付ける様に見つめる。


 「そんなに警戒しないで下さい。ただの勧誘です。あなたの息子のイラーノを騎士団に入れませんかって言う提案です」


 「え……」


 イラーノが驚いて声を上げた。

 まさか、そんな提案をしてくるとは思わなかった。こんなに早く来たのは、イラーノが街に戻ったからだ。

 本人がいる間に、ロドリゴさんに提案しようと。

 もしかして、ロドリゴさんを取り込もうとしてるんじゃないよね?

 ロドリゴさんに入れと言われたらイラーノも断りづらい。


 「御冗談でしょう? イラーノは、剣など扱えませんよ」


 そうロドリゴさんが返し、僕達はホッとする。


 「そうですか。それは問題ありません。俺も元はそうです。ご存知の通り騎士団の入団条件は、ヒールが扱える事です。彼なら誰も反対しませんよ」


 「………」


 その言葉を聞いてロドリゴさんは、何か考え込んでいる。

 これまずくない? ノーと言える材料がない。


 「お断りします」


 イラーノ自身が、断った。

 本人が嫌と言えば、ロドリゴさんも無理強いはしないだろう。


 「俺、クテュールとここを出る事が決まっているので」


 え!? ちょっと何言ってるの。

 あ、断る口実か。


 「ね、クテュール」


 そうクルッと僕に向き聞いた。

 その目は、連れて行けと言っている。口実じゃなくて本気だ。


 「あ……うん」


 「だそうです。よい申し出ですが、本人は騎士団には入る気はないようです」


 「それは残念だ。騎士団の者にイラーノを是非と言われ、急かされて来たものでな。……不躾な質問なんだが、一つだけ確認がある」


 アベガルさんが、フッと真面目な顔つきになる。


 「なんでしょう」


 「イラーノの本当の父親ですが、エルフだとご存知でしたか?」


 「いえ。さきほど聞きました。父親を捜しに行くと出て行って、すぐに出会えた様で驚いています。それを探りに来たのですか? ドドイが連れて来た子だとイラーノに話しました。それで、ドドイの息子のクテュールと共に探しに出たのです。他に聞きたい事は、ありますか?」


 淡々とロドリゴさんは語る。


 「いえ。大事な事だったので確認させて頂きました。不快な思いをさせて申し訳ない」


 そう言って、アベガルさんは軽く頭を下げた。


 「一つだけ言って置きます。イラーノは、私の息子です」


 一瞬驚いた顔をしたアベガルさんは、うむっと頷く。

 イラーノは、嬉しそうな顔を浮かべていた。

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