◆179◆泣いても笑っても

 トントントン。

 ルイユから話を聞き終えた頃、ドアがノックされた。


 「はい?」


 イラーノが返事を返すも何も返って来ない。イラーノは、ドアを開けた。そこには、リゼタが立っている。


 「リゼタ……」


 リゼタは、涙目で僕をジッと見つめていた。

 そして、ゆっくりと部屋に入って来る。


 「ねえ、明日には出て行くって本当?」


 ロドリゴさん、話しちゃったの?


 「あ、うん。やりたい事があるんだ」


 「やりたい事? それって何?」


 「別に何でもいいだろう?」


 「今度は、私がついて行くわ!」


 「はぁ!?」


 驚く事をリゼタが言った。

 イラーノを遠ざけたと言うに、この人は何言ってるの。


 「連れて行く訳ないだろう? 僕は、好きな人を探しに行くんだから」


 「え……」


 リゼタは、信じられない顔をする。


 「す、好きな人?」


 僕は頷く。


 「向こうで好きな人が出来たんだ。その人を追いかけるつもり」


 リゼタは、くるっとイラーノに振り返る。


 「本当なの?」


 「え!」


 なぜ俺に聞くんだと言う顔で、チラッと僕を見た。僕は頷く。


 「そ、そうみたい。綺麗なお姉さん」


 ちゃんとルイユだと気づいてくれた。

 まあ死んだことになってるんだけどね。


 「年上! 私も年上なんだけど!」


 「別に年上だからって事じゃないから。頼れる人で、ちょっとむちゃをする人だけど……」


 「それは本当なのか?」


 うん? 聞いて来たのは男だと見れば、開けっ放しのドアの向こうにロドリゴさんが!

 僕は、顔が火照るのがわかった。


 「えっと。それは……」


 「やっぱり嘘なのね! 私と行けない理由を作るために!」


 それをわかっていてなお、行きたいと言うのか……。

 もう!


 「違うよ! 本当に探すんだよ。ルイユって言う人。リゼタには到底かなわないとおもうけど? なぜ僕にそんなに執着するかわからないけど、リゼタを愛してくれる人にしなよ!」


 エジンは、お薦めしないけどね。


 「クテュールのバカ!」


 リゼタは、そう言って泣きながら部屋を出て行った。


 「リゼタさんって、君に本気なんだね。ちょっと危ないぐらいだけど……」


 「……やめてよ、もう」


 恥ずかしい台詞を普通に言わないでほしいんだけど!

 あれで諦めてくれるといいんだけど。

 明日は、早くここを出よう。


 「クテュールもいう時は、言うんだな」


 出て行ったリゼタを見送り、ロドリゴさんが言った。

 あれは嘘なんだけど、ロドリゴさんも信じちゃったみたい。

 イラーノを見れば、にやついている。


 《イラーノより彼女を連れて行く方がいいのでは?》


 はあ? 何言ってるの?

 驚いてルイユを見た。


 《彼女は、主様を裏切らないでしょう》


 「絶対に連れて行かない!」


 僕がそう言うと、ロドリゴさんとイラーノが僕を見た。

 しまったぁ! つい口走ってしまった。


 「俺は連れて行ってほしい」


 「え!?」


 「あ、リゼタじゃなくて、俺ね」


 「あぁ……。びっくりした」


 「っく……」


 声を殺してロドリゴさんが笑ってる!


 「あははは」


 そうすると、イラーノまで笑い出した。

 もうイラーノが紛らわしい言い方をするからだろう!


 「悪いけど一人で探すから……」


 「あ、ここに居ましたか。ロドリゴ、お客さんだ」


 焦った様子で、ダイドさんが伝えに来た。


 「客? 誰だ?」


 「騎士団の人だ」


 「何しに来た?」


 「それが、ただのご挨拶だとか……どうします?」


 僕とイラーノも顔を見合わせる。

 きっと、アベガルさんだ。もう来ちゃったよ。


 「何しに来たと思う?」


 ボソッとイラーノが聞いた。


 「たぶんだけど、ルイユが生きていると思ってるんだ。僕が、こっそり会うと思って追いかけて来たのかも」


 「うーん。でも普通、追いかけて来たってわかったら会いに行かないよね?」


 『彼なら、あなたたちが言った事が本当かを確認しに来たのかもしれません。彼は、侮れません』


 僕は、ルイユの言葉に、そう思うと頷く。


 「なるほど。そっちかもね」


 イラーノも頷く。


 「お前達も一緒に来るか? 世話になったんだろう?」


 ロドリゴさんが僕達に言った。

 色んな意味でお世話になったかな……。

 僕達は、頷いた。

 アベガルさんが、何しに来たのか確かめなくちゃ!


 「何だか気が休まらないね」


 イラーノがボソッと呟いた。


 「だね」


 ずっと気を抜けない。そんな感じだ。

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