◇172◇真夜中の襲撃

 ノラノラシチ街の牢屋よりしっかりした鉄格子。その一部屋に僕達二人は一緒に入れられた。

 壁に寄しかかり座り込んだ僕達は、はぁっと息を吐く。

 僕達の方は上手くいった。

 今頃、あのお守りのマジックアイテムを持った騎士団の人が、森の中に入っているはず。

 そして、作戦通りジュダーノさん達が、騎士団に捕まって連れて来られる予定だ。怪我せずに作戦通りに捕まっているといいけど。


 「ジュダーノさん達大丈夫かな?」


 「大丈夫だよ、きっと」


 イラーノも心配していたみたい。



 ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆



 《主様。もう少ししたら迎えに伺います》


 うん? ルイユ?

 声が聞こえた様な気がして目を覚ました。

 牢屋の中は、通路に明かりがあるだけで薄暗い。

 今何時なんだろう?

 イラーノは、壁にもたれ掛かり寝ている。

 こつんこつんと足音が聞こえて来た。

 そっと通路に近づき、音がした方を覗いた。


 (交代の時間だ)


 僕は、読唇術どくしんじゅつで、相手の言葉を拾う。


 (エルフを連れて帰って来たようだ。取り調べは夜が明けてからする事になった)


 そう交代する相手に告げている。

 ジュダーノさん達は、連れて来られた様だ。

 たぶん今、夜中だよね。


 『クテュール。無事か?』


 「うわぁ!」


 突然後ろから声を掛けられ驚いて僕は声を上げた。

 振り返るとサトンがいる!


 「なんで!」


 「どうした!」


 あ、しまった!

 僕が声を上げたから警備の人がこっちに来る。どうしよう。


 「えぇ!」


 イラーノも僕の声で目を覚ましたらしく、サトンを見て驚いている。


 「な! サーペント! カギを開けろ! 早く」


 「ちょ……なんでいるの?」


 そうなんで来たんだろう? 予定にはない。もしかして、ルイユに聞いて心配になったとか?


 『ジーンから伝言だギャウギャウギャウ二人共外に出る様にとギャウギャウギャウ


 「え……」


 僕とイラーノは顔を見合わせた。

 そんな作戦はない。というか、わざわざサトンが来て伝えなくてもそれだけならテレパシーでも……あ! サトンは囮か。


 「クテュール、牢の外へ。イラーノも隙を見て出て!」


 剣を構え騎士団の人が言う。

 頷いて僕は、素直に牢屋から出た。

 イラーノも四つん這いになりながら牢屋の出口に向かって来る。

 お芝居が上手だ事。


 「ねえ、ルイユは何する気?」


 「わからないよ」


 僕達は、小さな声で話し合う。


 「二人共!」


 牢屋の中から声が掛かり、僕達は体をビクッとさせそっと振り向く。

 聞こえた?


 「地上へ逃げろ! そして、誰かに伝えてくれ!」


 「わかりました」


 イラーノが頷きながら答える。

 びっくりした。会話が聞こえたわけじゃないみたい。

 僕達は、地上に向かって走り出す。

 外はまだ、真っ暗だ。たぶん夜中。


 「よかった無事だったか!」


 取りあえず建物の外に出てみると、冒険者達がわんさかいた。

 声を掛けて来たのは、アベガルさんだ。

 近くにジュダーノさん達三人もいる。ジュダーノさん達は皆、顔を上げ空を見上げていた。

 まさか!

 僕も見上げて驚いた! ルイユが、人の姿で浮かんでいる!


 「うわぁ。何やってるの?」


 僕は叫んでしまった。


 「アベガルさん……地下にモンスターが……。これは一体どうなって?」


 牢屋番の二人が来た。

 どうやらサトンは、地面に潜り逃げたようだ。よかった。


 「何しに来た? クテュール達を連れに来たか?」


 アベガルさんが叫ぶ。

 こんなの聞いてない!


 「ねえ、あのマント前から見るとちょっと間抜けだね」


 イラーノがボソッと言った。

 ルイユは、僕が作ったマントもどきのマジックアイテムを装備している。胸の上辺りに紐が見える。

 人間は普通は浮けない。だからマジックアイテムで浮いている様に見せる為だと思うけど……。

 持って行ったのは、その為か。最初からこれをする気で。


 「あれ、後ろから見ても間抜けだと思う……」


 僕は、イラーノにそう返す。

 マントには、僕達が掴む紐が付いている。


 「違うわ。復讐しに来たのよ!」


 ルイユが、アベガルさんの質問に答えた。


 「どういう意味だ? 感知玉の事を言っているのか?」


 「そうね。大雑把に言うと、あなた達人間は、エルフと人間のハーフをエルフと同じだと捕まえようとし、エルフ達は災厄だと疎む。だからあの森のボスを目覚めさせ、復讐しようとしたのよ」


 「ボスだと!?」


 アベガルさんが僕達を見た。

 ボスとは何だと言う目だ。

 作戦では、あの森は歴代のモンスターのボスの墓という事になっていて、エルフ達はそこの墓守の役目をしていた。

 僕達は、それを知って森から出て来た事になっている。

 予定では、それをジュダーノさん達からアベガルさんが聞き、確かめに行った所をジーンと本来の姿のルイユが襲い、森から追い出す手はずになっていた。

 作戦とちょっと、いやだいぶ違うだろう!

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