◆173◆悪役ルイユ死す?

 これ失敗したらかなりやばいんだけど……。

 って、これからどうする気なの?


 「カゲイケセさん。森にボスがいるのか?」


 「彼女の言っている事は本当です。と言っても魂です。私達は代々、モンスターのボスの魂を鎮める役を担っておりました。その魂を怒らせれば、モンスター達が共鳴し狂暴化すると言われております」


 そう話すカゲイケセさんをアベガルさんはジッと見つめている。

 そして、ルイユに視線を移す。


 「にわかに信じがたいな……。我々は聞いた事もない」


 「人間が知る訳がありません。モンスターを祭らないでしょう」


 え? そんな事言っちゃっていいの? これも作戦? それともノリ?


 「エルフは、モンスターを崇めているというのか?」


 「いえ。モンスターのボスは、我々を守ってくれる存在なのです」


 「なるほど。では彼女は、墓守の情報をどこかで仕入れ、あの森を訪れたって事か?」


 カゲイケセさんは頷く。


 「我々を信用させる為に、ドドイさんの息子まで連れて来ました。ただしつこく墓のありかを聞くので追い返したのです」


 「ほう。追い返したねぇ……」


 アベガルさんは、話を信じたかどうかはわからないが、ルイユを睨み付ける。


 「ここに来るより墓を探しに行った方がいいんじゃないか?」


 何と驚く事をアベガルさんは、ルイユに言った!

 確かにこんな大勢の冒険者相手に勝ち目はない。そのボスの魂を手に入れていれば別だけど。そんな設定じゃないよね?


 「ふふふ。私が手を下さなくても滅ぶわよ。この街は! 私は、そこのエルフに用事があるの」


 何だかルイユの悪役がとっても似合っているんだけど。


 「ルイユは、どうする気なんだろう? ここ、滅ぼす気?」


 って、イラーノが僕に聞いた。

 知っているわけがない!

 この作戦をカゲイケセさんが知っていて打ち合わせ通りなのか、ただ合わせて話しているのかさえもわからないのに。


 「なるほど諦めてはいないって事か」


 と、その時バッサバッサと音がし始めた。そして強風が、吹き付ける。

 え? あれってキュイ!?

 暗闇に漆黒の体が浮かび上がる。

 鋭い視線が、冒険者達を捉えた。

 周りからごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。


 「な、なんだあれは」


 どこからかそんな声が聞こえた。


 「あ、あれは! 今のモンスターのボスです! きっと逆鱗に触れたのです」


 カゲイケセさんが、怯えた様に言うと周りがざわつく。

 街には結界が張ってある。本来ならあり得ない光景だ!

 って、キュイまで巻き込んでるんだけど!


 「本当にモンスターのボスを連れて来ちゃったよ……」


 イラーノが、ボソッと呟いた。


 「ほーら現れた」


 ほーら現れた、じゃない!

 何キュイまで巻き込んでいるのさ。


 「どうしよう、イラーノ」


 「俺に聞かれてもなぁ。まさかここまでするとは……」


 確かに思わない。

 ルイユに任せるととんでもない事になる事がよくわかったよ……。

 僕は、走ってルイユに近づく。


 「クテュール!」


 その行動に驚いて、アベガルさんが僕の名を叫ぶ。


 「ルイユ、もういいから! やめよう!」


 「ごめんなさい。クテュール。もう無理よ。モンスターのボスを落ち着かせるのには、あのエルフの三人の力が必要よ。けど人間は、エルフと協力しあう事なんてないでしょう?」


 何を言っているんだ。

 まさかと思うけど、キュイにこの街を破壊させるつもりじゃないよね?

 作戦なんだよね?


 「破壊させたらダメだからね」


 そう言った時だった。

 突風が吹いたと思ったらキュイが僕らに凄い勢いで近づいて来て、パクッとルイユを食べた!

 ひらひらとマントが落ちて来て、僕はそれをキャッチする。

 え? これどういう事?

 作戦? それともキュイが怒って食べた?


 「ルイユ!?」


 「人を食べたぞ!」


 僕がルイユの名を呼ぶと、冒険者の皆が一斉に武器を構えた!

 え? 攻撃する気?

 そりゃそうだ。ルイユは、復讐すると僕達に歯向かっていたけど人間だ。それを一飲みされた。

 やらなきゃやられると思って当然だ。


 「お待ちください! 束になっても勝てませんよ!」


 「あぁ。たぶんな」


 カゲイケセさんの言葉に、強張った表情でアベガルさんが答えた。


 「けど俺達は冒険者だ。結界が効かない以上。戦うしかない!」


 「今ここで戦えば、この街だけじゃすまなくなります! 森にいる冒険者達を撤退させて、我々を森に……墓に戻して下さい! 役目を果たさず森を荒らしたので、怒って現れたんだと思います!」


 カゲイケセさんの言葉に、アベガルさんもどうした事かと悩んでいるようだ。

 一応作戦みたいだけど、ルイユ生きているよね?

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