◆171◆独学の錬金術師

 アベガルさんは、手渡した茶色のミサンガをジッと見ている。


 「これはどうした? ルイユに貰ったのか?」


 「いえ……僕が作りました」


 消え去りそうな小さな声で答えると、え? っとアベガルさんは聞き返す。


 「それは、クテュール自身が作った物です。俺のミサンガも」


 「何故そんな物を?」


 不思議そうにアベガルさんは聞いた。

 普通の男子は、裁縫なんかしない。至極自然な質問だ。


 「趣味で……」


 「趣味?」


  アベガルさんは、凄く驚いて聞き返した。


 「そう趣味なんです。作ってもいいからミサンガぐらいにしてってお願いしたら三つも作ってくれて。帽子はお気に入りだけどね」


 「その帽子も彼が作ったのか!」


 帽子など普通の女子でも作らない。

 唖然としてアベガルさんは、僕が作ったイラーノが被る帽子を凝視する。


 「たしかに、彼のリュックには、裁縫道具と布が入ってます」


 「ほれ」


 納得したのか、アベガルさんはミサンガを返してくれた。


 「それであのウサギにも付けていたのか」


 あ、そういえば、リリンをアベガルさんは見ているんだった。


 「見た目は、イラーノの方が女っぽのにな……」


 女の趣味なのにと、アベガルさんはボソッと呟く。

 すみませんね! でもこれ、凄く役に立ってますから。


 「それについてはわかった。椅子に座ってくれて」


 僕達は、さっきの椅子に座る。

 あぁ、お腹空いて来た。

 もうとっくに陽が落ちているが、このまま聴取を行う様だ。


 「で、ルイユとはどこで出会った? 君達は、馬車でこの街に来たよな?」


 僕達は頷く。

 アベガルさんとは、馬車の中で出会った。その時は、ルイユはいない。


 「この街で落ち合う事になっていたんです。ちょっと調べる事があるから先に行っているって」


 イラーノが答える。

 目を合わせないように、僕は俯いておく。


 「まさかと思うが、あの森で待ち合わせていたのか?」


 襲われた森の事だろう。

 僕達はまた揃って頷く。

 そうしないと、ルイユが森にいた説明がつかないからだ。


 「お前達、おかしいと思わなかったのか? 仮にも女性が森で待ち合わせなんて……」


 「えっと。彼女は、何か色々凄いアイテムを持っていて。ヒールも使えて大丈夫かなって……」


 ルイユは、錬金術師。という事になっている。

 女性の場合は、能力は気づかれない事が多く、マドラーユさんの様に女性で錬金術師も稀だ。

 ただ気づけば独学でも出来るのが錬金術らしい。

 空を飛んでいた所をアベガルさんには見られている。そう誤魔化す事になった。


 「で、なぜあのエルフの森に?」


 「それはさっき話した通り、俺の父親がいるって聞いて……」


 「では、母親は?」


 「亡くなったと聞いています」


 「……そうか」


 イラーノも俯いた。

 ここら辺の話は、本当の事だ。まああの森が、その場所だとは行ってからわかった事だけど。


 「君を育てた方は健在か?」


 イラーノは、俯いたまま静かに頷いた。

 それには触れられたくない。そういう雰囲気をだしている。


 「名前は?」


 「………」


 だがアベガルさんは聞いて来た。

 イラーノは、チラッとアベガルさんを見るも俯いたまま答えない。


 「何故言わない? この前聞いた時もそうだったな」


 「迷惑をかけたくない……」


 そう静かにイラーノは答える。


 「君の素性を確認する為だ」


 冒険者の証には、別に親やなどの情報はない。


 「クテュール。君はどうだ? 彼の親について知っているか?」


 「イラーノが言いたくないって言っているに僕が答えると思う?」


 僕は、顔を上げアベガルさんの瞳を見つめそう答えた。

 アベガルさんは、少し驚いた顔を見せる。


 「言わないと今日は、宿ではなく牢屋に泊まる事になるがいいのか?」


 僕は頷く。

 イラーノもやや遅れて頷いた。


 「わからんな。そんなに厳しい方だったのか? まあいい。クテュールがドドイの息子かどうかは調べられるからな。夕飯を食べさせた後、牢に入れて置け」


 アベガルさんはそう言うと、立ち上がった。

 僕達は、ホッとする。

 きっとどうせイラーノの育ての親が、ロドリゴさんだとわかるだろう。でも今、ロドリゴさんの状況がわからない。

 どうなったんだろうか? できれば向こうの状況も知りたいところだ。


 「お父さん……」


 隣でボソッとイラーノが呟いた。

 きっとイラーノが一番不安だ。

 イラーノがさっき言ったのは本音だろう。

 僕達は、夕飯を食べた後牢に入れられた――。

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