◇166◇10分間の攻防戦

 アベガルさんに睨みつけられて、足がすくんで動けない……。

 イラーノだけでも逃がしたいのに、どうしたらいいんだ。

 嫌な汗が流れて来る。

 と、突然アベガルさんは、後ろを振り向いてその場から大きく離れた。


 「おっと!」


 「………うわ!」


 凄い風が僕を襲った!


 「外したか!」


 声の主は、オスダルスさんだった。ボールウィンツさんも一緒だ。


 「おまえら!」


 アベガルさんは、二人を睨み付ける。魔法を交わしたが、少し怪我を負っている。


 「ヒール」


 「え! 使えたんだ……」


 アベガルさんが、自分自身にヒールしたのを見て驚いた。


 「騎士になるのにヒールが条件の一つだからな」


 そうだったんだ。

 助けに向かってその場で回復させれれば、生存率はぐーんとアップするけど……。

 じゃさっき、イラーノがヒールしなくても自分で回復できたんだ。


 「シールド」


 アベガルさんが、左手を擦りながらそう呟いた。


 「覚悟しろ!」


 そう言って剣を抜くと、アベガルさんは二人に向かっていく。

 オスダルスさんも剣を抜く。

 ボールウィンツさんが、アベガルさんに魔法を放つも跳ね返した!


 「お前達は何を企んでいる!」


 「ふん!」


 剣を交えアベガルさんが言うもオスダルスさんは答えない。


 「ちょっと待ってアベガルさん! その人達は、イラーノを探していただけなんだ! 何も企んでいない!」


 「クテュール。お前は騙されているんだ! 10分で援護隊が来る。逃がさんぞ!」


 10分だって!?

 そっか。崖の向こう側にでも待機しているんだ。

 あの空飛ぶ馬なら来れるかも!


 あ、動ける!

 僕は、イラーノに駆け寄った。


 「キャンセル」


 イラーノが崩れ落ちる。


 「ちょ……大丈夫?」


 「いや、もう。これ勘弁。痺れて動けないし、言葉も発せない。凄い苦痛だった。魔力も抜けて行って……もうクラクラ」


 青ざめた顔でイラーノが言った。


 『話せないのは、魔法を使わせない為でしょう。それより逃げるチャンスです』


 チラッと戦っているアベガルさん達を見て、ルイユは言う。

 いつの間にか、アベガルさんとさっき一緒にいたゼルダグさんも戦っている。


 「待って! ジュダーノさんも助けて」


 僕は頷く。

 勿論最初からそのつもりだ。


 『私から一つ助言です。あの三人を助ければ、今の均衡が崩れてアベガルがやられるでしょう。主様の立場が悪くなると思いますが?』


 僕は、ハッとする。

 たぶん動ける様にすれば、オスダルスさん達の援護に向かうはずだ。

 でも、放っておけば援護隊が来る。どうしたらいいんだ……。


 「クテュール! さっきも言ったが騙されているんだ! あと少しで援護が来る。大人しくしていろ!」


 アベガルさんが叫んだ。

 もう五分もしない内に来るだろう。

 焦るばかりでどうしたらいいかわからない。


 「アベガルさん! さっきも言ったけど俺は、父親に会いに来ただけです。何も企んで何ていません!」


 イラーノも叫んだ。


 「っち。埒があかないな!」


 そう言ったオスダルスさんが、ピアスを取った。容姿はほとんど変わらないけど、耳が尖がった!

 変化をといたんだ。


 「くらえ! ストーム!」


 オスダルスさんが、アベガルさんに向けて魔法を放つ。

 今までは跳ね返していたが、威力が違うのかアベガルさんは吹っ飛んだ!


 「ぐわぁ!」


 「これで終わりだ!」


 オスダルスさんは、剣を振り上げる!


 「アイスイン!」


 振り上げていたオスダルスさんの剣が、ミシミシと音を立てて氷ついて行く!

 そして、オスダルスさんの手から落下した。


 「な!」


 オスダルスさんは、驚いてイラーノを見た。

 イラーノは、オスダルスさんに向けていた手を下ろす。


 「何をした!」


 「剣を封印しただけだよ。もうやめて! 何で争うのさ!」


 「ハーフのお前が言う台詞かよ! ストーム!」


 今度はイラーノに向けてオスダルスさんは、魔法を放った!

 咄嗟に僕は、イラーノ前に立つ。魔法は、無効化され僕は無傷だ。

 イラーノは、少し受けただけで済んだ。


 『主様。あまり無茶はなさらないで下さい!』


 僕の行動にルイユは驚いて言った。


 「クテュール、ありがとう」


 「ふーん。対策は立てて来たって事か」


 「僕達がここにいるのは、別に復讐をしに来た訳じゃ……」


 『主様! 来ました』


 ルイユの声にハッとして空を見上げると、10人程馬に乗って飛んできている!


 「もう逃げられない! 覚悟しろ!」


 きっと、本当に何も企んでいないと言った所で信じてもらえないだろう。

 オスダルスさん達は、僕達を殺そうとしたから言い逃れは出来ない。でも、ジュダーノさん達は逃がしたい。


 「キャンセル!」


 僕は、ジュダーノさんに掛かっている魔法をキャンセルして動けるようにした。


 「何をしている!」


 『主様!?』


 驚いてアベガルさんとルイユが声を上げる。


 「理屈じゃないんだよ」


 僕は、そう言った。

 今なら加勢せずに逃げるだろう。

 でも僕も逃げないといけなくなった……。

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