◆167◆見えて来た背景

 「ありがとう。クテュール」


 地面に倒れ込んだジュダーノさんが言った。僕は頷く。そしてそのまま、カゲイケセさんに向かう。


 「クテュールやめろ! 自分が何をしているのかわかっているのか!」


 「何も企んでいないから!」


 僕は、カゲイケセさんの魔法もキャンセルし、スフェオアさんもキャンセルする。


 「このバカが!」


 吐き捨てる様にアベガルさんが言った。


 「オスダルス! 森へ」


 カゲイケセさんが叫びながら森へ向かう。

 ジュダーノさんが僕達もというので、僕達も森へと逃げる事にした。


 「ストーム!」


 オスダルスさんが、アベガルさんに魔法放ち隙を見て、森へと駆け込む。

 しばらく走り止まり振り返るが、アベガルさん達は追って来ていないようだ。


 「大丈夫だ。ここは、迷いの術がかかっている。エルフ以外は、中に入ってこれない」


 そうオスダルスさんは説明し、僕を見た。

 エルフ以外……何故、僕は入れたという顔つきだ。


 「はあ……もうだめ、横になりたい」


 そう言ってイラーノは、座り込む。


 「で、この二人はどうするんだ?」


 座り込んだイラーノを睨みつつ、オスダルスさんは聞いた。


 「彼がチュトラリーになってしまっていた」


 「何だって!」


 カゲイケセさんの言葉にオスダルスさん達は驚く。


 「そう言う事か。だから生きていたのか……。そのエキュリスは、イラーノが連れて来たのではなく、彼の眷属だったのか」


 「あぁ、しかもルイユだ!」


 またもやカゲイケセさんの言葉に、二人共驚いた。


 「じゃ本物だな。なんて事だ……」


 「すまない……」


 ジュダーノさんが謝るもオスダルスさんは睨み付ける。


 「すまないって……今更!」


 「あの……ジュダーノさんが、王にならなかったらどうなるんですか?」


 イラーノが聞いた。


 「そんな事、聞いてどうする? もう目障りだ! 目の前から消えろ!」


 オスダルスさんが、イラーノに向かって叫んだ。


 「あの、僕が何とか出来る事ってないですか?」


 「お前が? 笑わせるな!」


 僕が聞くと、オスダルスさんが更に声を荒げた。

 どうやら人間自体、好きじゃないみたいだ。


 「人間のあなたには、何も出来やしないさ」


 カゲイケセさんが言った。


 『あぁ、なるほど』


 「なるほどって。ルイユ、何か知っているの?」


 『チュトラリーになった者には加護が与えられるの。それは本人が望む加護。代々エルフは、女性の出生率を増やす加護だった。そうして、数を減らさないようにしていたはず……』


 そういう事か。

 じゃ僕には無理だ……。


 『次の代まで女性エルフがいればいいですが……』


 「そ、そんなに少ないの?」


 『さあ? ですが、ここにはもうエルフはいないようです』


 「え? 五人だけ?」


 イラーノは、驚いて聞いた。


 「あぁ、そうだよ!」


 オスダルスさんが、悔しそうに言う。

 どうやらかなり深刻みたいだ。

 でも僕には、どうする事も出来ない。


 「あんな事があってからエルフは、激減した」


 「あんな事?」


 カゲイケセさんが言った言葉に、僕は聞き返す。


 「ずっと昔、チュトラリーになった者がエルフの国を作ると言い出し、一国を乗っ取り本当にエルフの国を作った。そこまではよかった……」


 凄い。国を作っちゃうなんて!


 「その者は、モンスターを使い周りの国に戦争を仕掛けたのだ! 我々にはそんな意思がなくとも、モンスターを使い戦争を吹っ掛ければ、エルフの意思だ! その後、エルフと人間の仲が壊れたのだ」


 「そのチュトラリーは、エルフと人間のハーフだった! 災厄の根源だ!」


 カゲイケセさんの説明に続き、オスダルスさんがイラーノを睨み付けながら補足した。

 イラーノに敵対心を持っているのは、どうやらハーフだからだったようだ。


 『私がいなくとも一国を乗っ取り戦争をするなんて、その主様の願いはそういう系統だったのでしょうね』


 「じゃ僕は、裁縫をするだけでいいんだけど! どうしてこうなってるの?」


 『それは私に聞かれてもわかりません』


 そうだよね。

 さてこれからどうしよう。

 僕達もお尋ね者だよね。

 エルフと仲良くともいかなそうだ。

 僕が人間だから彼らの願いが叶わない。どちらかと言うと、目の敵にされそうだ。


 「イラーノ?」


 具合が悪くて俯いているのかと思っていたが、俯いて泣きそうな顔つきだ。


 「俺、エルフにも人間にも忌み嫌われる存在だったんだ……」


 ボソッとイラーノは呟いた。

 エルフにとってハーフは、災厄の根源みたいだし、人間から見ればイラーノは、エルフに見えるからこれもまた、嫌われる対象だ。

 僕も似たようなものだ。

 人間にとってテイマーは、要注意人物で、エルフにしたら人間のチュトラリーは、人間だから加護を受けられないわけだし……。

 僕達は、行き場がなくない?

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