◇142◇陽が落ちた森で

 『暗くなってきたけど、戻らなくてもいいのかしら?』


 ルイユに言われて顔を上げた。森の中なので、空はほとんど見えないが赤い。空は陽が落ちる少し前の夕方になっていた。

 帰る場所は決まっている。慌てる必要もない。だけど少し一人になって考えてみよう。そう思い宿に戻る事にした。


 「陽も落ちて来たし今日は帰るよ。ジーンお願いしていい」


 『了解した』


 ジーンにまたがり森の出口付近まで走ってもらう。その間に陽が落ち辺りは真っ暗だ。


 「ありがとう。ジーン。明日は仕事を受けてからくるね」


 『わかった』


 『主様。私達は、あなたについて行きます』


 ルイユが、そう真面目な表情で僕に言った。

 そんな事を言われても困る。

 生きたいと願って手に入れた人生だけど、何かしなくちゃいけないんだろうか?


 「あ、いたいた。やっぱりこっち側の森にいたね」


 手に明かりを灯し、イラーノが近づいて来た。


 「あ、イラーノ。今日はもう仕事終わったの?」


 「うん。陽が暮れる頃までにしてもらったんだ。あ、マジックアイテム作ったんだね。ちゃんと動物に見えるよ」


 イラーノは、嬉しそうな瞳で、ルイユを見ている。


 「撫でてもいいかな?」


 やっぱり。本当はモンスターだと知っているのに見た目が変われば大丈夫なんだ。


 『ダメよ』


 「「え?」」


 僕とイラーノは驚いた。僕が通訳していないのに、ルイユが答えたからだ。


 「君って、俺の言葉理解できるの?」


 『えぇ。私は人間の言葉がわかるわ。あなたは、主様の仲間の様ですが、裏切れば私は容赦しません。覚えておくように』


 「……裏切らないけど。凄い忠誠心だね」


 イラーノは、驚いた顔で僕を見て言った。

 正直僕も困惑している。別に彼らを使って何かをしたいわけじゃない。ただ仲良くしたいだけ。


 「イラーノもエルフを……」


 「へえ。こんなところで女とあいびきとはな」


 「ガキの癖に生意気だな」


 声に驚いて見ると、たぶんルイユを罠に掛けた二人組だ。ランプを手にした黄色い髪の男が言うと、頷いて隣にいた水色の髪の男も言った。

 ところで、あいびきって何だろう?

 僕は、ちらっとイラーノを見た。


 「俺は、男だ」


 ため息をしつつイラーノは返した。


 『あいつらガウガウ……』


 ルイユが、今にも飛びかかりそうだ!


 「もしかしてお前、どこかの金持ちのボンボンか?」


 ランプを手にした男が言った。

 そんな事を言われた事は一度もない。どこを見てそう思ったのか……。


 「動物を連れて優雅に冒険者気取り?」


 もう一人の男が言った。

 あ、ジーン達を見てか。

 冒険者は、動物を連れて歩かないみたいだった。お金がかかるもんね。


 「別にお金持ちじゃない。彼らは、僕に懐いているから……」


 「ふーん。懐くね。ところでさ。あそこに罠あっただろう? あれ、壊したのおたく?」


 ランプを持った男のがそう聞いて来た。

 そうだった。壊したんだった……。さて、どうしよう。ジーンが壊したと言っても信じないだろう。犬にしか見えないんだし。

 それに、本当だとしたら犬じゃないとばれる。


 「えっと。ごめんなさい」


 「やっぱりそうか! 金出せよ。あれ、買うのにどれだけかかったか!」


 水色の髪の男の方が、僕達に近づきながら手を出して来た。

 金と言われても困る。いくらするんだろう?


 「ないなら、この女でいい!」


 驚く事を言って、伸ばしていた手でイラーノ腕をガシッと握った!


 「ちょ……。離せよ! 男だって言っているだろう!」


 「女の冒険者はいいよな。お前美人だし、お金稼ぎ放題だ。どうせヒールぐらいしか出来ないんだろう?」


 「……な!」


 「やめて! イラーノを離して!」


 どうしよう。まさかこんな事になるなんて!

 完全に女だと思ってる。


 「男物の帽子なんてかぶりやがって」


 ひょいとイラーノが被っていた帽子を取り上げた。


 「返せよ!」


 イラーノは、取り上げられた帽子を取り返そうと、手を伸ばす。


 「お金は払うから!」


 僕は慌ててそう言った。イラーノの事は、男だとすぐわかるだろうけど、あの帽子があの二人の手に渡るのはまずい。


 『やるわよガウガウジーンガウガウ


 『了解ワン


 「え? ちょっと待って」


 「うん?」


 吠えた様に聞こえたのか、帽子を持った男がジーンに振り向いた。

 それと同時にジーン達は、動き出す。


 「ダメ!」


 僕は咄嗟にルイユにジャンプして抱き着いた!

 血を吸わせる訳にはいかない!

 何とかルイユに抱き着き顔を上げると、ジャンプしたジーンが帽子を男から奪った。


 『あなたの仲間を助けるだけですガウガウガウガウ


 「それでも、血を吸わせる訳にはいかない」


 僕は、小声で返す。


 『かぶりつくだけで吸わないわよガウガウガウガウ


 僕は、その返事にホッとして離した。


 「この犬ころめ!」


 「ジーン!」


 ランプを持った男が、ジーンに蹴りを入れようとするもそれをジーンはひらっとかわす。そして、僕の元に帽子を持って来た。

 僕は、安堵する。

 って、イラーノを助けなきゃ!

 男は、イラーノの両腕を掴まえていた。

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