◆141◆モンスターの主様

 まずは、腹ごしらえ。パン屋に入った。


 「いらっしゃい。あら今日は一人?」


 「うん。イラーノは仕事」


 「そう……」


 メリアーヌは、残念そうだ。

 でもしばらくは、イラーノは食事があたるから買いに来ないんだよね。

 やっぱりパン屋は、パンしか売ってないか。

 って、冒険者が必要なものだからここにあるわけないよね。

 僕は、パンを買って店を出た。

 一人ポツンと公園のベンチでパンを食べる。


 この頃、周りに人がいたから何となく静かだ。

 ジーン達の所に行こう!

 僕は、走って森へ向かった。



 ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆



 「ジーン」


 呼ぶと、三人は現れた。


 『どこへ行く?』


 「うん? 別に仕事受けてないし行かないけど」


 『ここは、向こう側より人が来るわ。見つかりたくないならもう少し奥がいいと思うわ』


 「わかった。奥へ行こう」


 ルイユの提案で、ジーンにまたがり森の奥へと移動する。

 何となく、生えている物が違うみたいだ。

 ジーンは、ある程度奥に行った所で止まった。


 「あ、そうだ」


 リュックのキノコの事を思い出し、リュックから出して地面に置いた。


 「これ売れなかったから食べていいよ」


 『そうか!』


 ジーンは、嬉しそうにキノコにかぶりつく。

 僕は、その隣に腰を下ろし食べかけのパンにかぶりついた。

 そして、僕達はただぼんやりと森の中で過ごす。

 そうだ。僕達、エルフを探さないといけないんだよな。こういうのは、どうやって情報を得ればいいんだろう?


 「うーん。エルフがいる場所か……」


 『エルフを探しているの?』


 「え? 知っているの?」


 僕の呟きに、ルイユが反応した。


 『知ってるわよ。ただし今住んでいる場所はわからないわね。彼らは、魔力が多い場所に住み着いていたから。でも、もしかしたら滅んだかしら?』


 「滅んだって!? どうして?」


 『先に聞くけど、エルフの事をどれくらい知っているの?』


 「どれくらいって。エルフという種族がいるって事ぐらいしか……」


 『それは、何も知らないに等しいわね』


 「まあ、そうなるけど……」


 ルイユっていくつなんだ? モンスターってすっごく長生きとか?

 なんか、かなり昔から知っているみたいな感じだったよね。


 『エルフは、人間より魔法に長け長寿なの。でもね、女性より男性の方が多い種族よ。そして、どちらかと言うと、人間よりモンスター側の種族かしら』


 「モンスター側って?」


 『敵対してないって事よ。今は知らないけどね』


 「今は? それって、昔はそうだったって事? ルイユは、もしかして凄く長生きなの?」


 『いいえ。まあエルフぐらいには長生きかしら。でもこの記憶は、私の能力なの。輪廻、転生? っていうの? 私は、この世界でそうして生まれ変わっているの』


 「え!? じゃ、さっきの話って、ルイユが前に生きていた時の記憶って事?」


 『うーん。正確には、前の主様の時代の記憶ね』


 前の主様? うん? 今の主って僕? 主ってご主人様?


 「それって、テイマーって事?」


 『違うわ。主様よ。私達の主様。人間が言うテイマーとは違うわ』


 「もしかして、今の主って僕?」


 『そうよ。やっと自覚してくれた? 私の記憶を引き出したのもあなた。間違いないわ』


 引き出した? どういう事?


 『あのままだと私は死んでいたわ。血の復活。それで私は、力を得た。後は、人間の血を手に入れれば、本来の力を発揮できるの。そう言ったでしょ?』


 血の復活!?

 ちょっと待って。それってジーンも? それともそれってルイユだけ?


 「あのさ、ジーンも血の復活ってしちゃってる?」


 『私も血の復活をして頂いた。魔力を蓄えれば蓄える程力が増す』


 ジーンにも血の復活をしていた。必要なのが、魔力でよかった。

 でもこの事は、誰にも知られてはいけないかも。知られたら恐れられて殺される!

 モンスターの力を増幅させる能力だったなんて……。

 でも今までの主様って、彼らを従えて何をしていたんだろう?


 「ねえ、ルイユ。前の主の人ってルイユ達を従えて何をしたの? 何か目標とかあった?」


 『そうね。大抵は、エルフの繁栄かしら?』


 「え? エルフの繁栄!?」


 なんで、エルフの繁栄なの? って、昔は、エルフって普通に人間と共存していたの?


 『そうね。主様は、ほとんどがエルフだったわ。人間だった主様は、記憶では一人ね』


 「一人……」


 主になる者って本来は、エルフだったって事?

 って、僕は一体どうすればいいんだろう。


 「ねえ、その人間の主がした事って?」


 『世界征服だったかしら? まあ、失敗しちゃったけどね』


 「……だろうね」


 どれくらい昔の話か知らないけど、従えているモンスターが強くても自分自身が弱ければ無理だ。僕は、する気はないけど。

 僕は、何の為にこの力を与えられたんだ?

 どう考えてもエルフの繁栄の為じゃないだろう。できれば、何もせず普通に過ごしたい。それが、僕の希望だ。

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