◆143◆一人では何も出来ない

 どうやって助けよう。

 ジーン達を使って助けたら後々面倒な事になりそうな気がする。でも、僕では彼らに勝てない。

 そう思いジッと三人を見ていると、彼らの後ろに明かりが見えた。

 誰か来る!


 「お前達か。で、喧嘩か?」


 現れたのは、騎士団のアベガルさんだった。

 僕は、助かったと安堵する。この人は、イラーノが男だと知っているから男だと言ってもらおう。


 「アベガルさん……」


 そう呟くと、手を押さえつけていた男が、イラーノの手を離した。イラーノは、慌てて僕達の元へ来る。


 「まさかと思うが……」


 「いや、まさか! こいつが俺達の罠を壊したから」


 「罠?」


 まずい! 僕じゃ罠を壊せないからこのままだと変だと思われる。


 「話をすり替えるなよ! 俺を女だと思って無理やり連れて行こうとしたじゃないか!」


 そうイラーノが叫んだ。


 「本当か? モガード、ウダエカ」


 「いや、えーと」


 今度は、向こうが焦っている。

 イラーノのお蔭で何とかなった。


 「あの、僕達大丈夫ですので……」


 兎に角、この場から追及される前に離れよう。


 「悪かったよ。行こうウダエカ」


 ランプを持った男が言った。

 向こうも同じ考えだったようだ。

 ウダエカさんが頷くと、二人は頭を軽く下げ逃げて行った。それを特段アベガルさんは、止めずに見送った。


 「えっと、じゃ僕達も……」


 「待て」


 何故か僕達は止められた。

 経緯を聞かれたらどうしよう。ドキドキとして次の言葉を待つ。


 「君は、兎だけじゃなくて大型犬も連れていたのか……」


 「え?」


 僕は、ジーンに振り向いた。

 ルイユは、ジーンの後ろに隠れている。


 「……はい。でも、大人しいし従順です!」


 「そうだとしてもそこまでデカいと食費が半端ないだろうが」


 普通の犬ならそうだけど、ジーンは一週間食べなくても大丈夫だって言っていたし。って、説明するわけにいかないしな。どうしよう。


 「そ、それは対策があるんです。それよりアベガルさんはどうしてここに?」


 イラーノがそう切り返した。


 「あぁ。見回りだ。騎士団は、街の周りを見回っている。感知でここに数人いるようだから確認しに来ただけだ」


 そうだったんだ。でもそれで助かった。


 「街の中に連れて行くのはかまわないが、建物内は禁止だ」


 「はい」


 「では行くが、夜の森は物騒だ。結界が張れないなら街に戻る様に」


 「はい……」


 結界か。そんな発想なかったな。


 「宿に行こうか。クテュール、ご飯まだだよね?」


 「うん」


 「俺もなんだ。宿のご飯食べてみる?」


 「そっか。イラーノは、宿のご飯あたるんだもんね」


 「まあね」


 「じゃ、僕は街に戻るから。また明日ね」


 僕は、ジーン達に手を振る。


 「あ、そうだ。帽子」


 僕は、ジーンが取り返してくれた帽子をイラーノに渡した。


 「ありがとう。ジーン達もありがとう」


 帽子を被りイラーノが、ジーン達にお礼を言った。


 『もうヘマはしないでほしいわね』


 「あはは。言われちゃった」


 「ごめん。僕が悪いのに」


 「そうだ。罠って?」


 僕は、チラッとルイユを見る。


 「それは、ご飯の時にでも」


 「うんじゃ。食べに行こう」


 僕達は、森を抜け白い鳥の食堂で夕飯を食べ、部屋に戻った。


 「あぁ。疲れた」


 イラーノは、ごろんとベットに横になる。

 僕は、ベットに腰掛けた。


 「しかし、ルイユが罠に掛かっていたなんてね。そんなヘマするように見えないのにね」


 僕は、約束通りご飯を食べながら罠に掛かったルイユの話をした。

 たぶんだけど、性格も血の復活で変わったんじゃないかな……って思う。

 まあ、助ける前は、少ししか会話してないからわからないけど。雰囲気が変わった感じがする。


 イラーノにも、血の復活の事は話していない。

 ルイユは、僕に何を望んでいるのだろう?

 明日、もう少し詳しく色々聞こう。



 ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆



 次の日、イラーノと別れて冒険者ギルドに仕事を見に来たらバッタリと昨日の二人組に遭遇した。

 ど、どうしよう。ジーンもルイユもいない。


 「へえ。一人なんだ」


 「そう言えば、あの時も一人だったよな」


 昨日ランプを持っていた男、たぶんモガードさんだったと思うけど、僕の右肩にポンと手を置くと、ウダエカさんが左肩に置いた。

 ひー。どうしたらいいんだ。


 「お前。もしかして凄く強いとか?」


 モガードさんが聞く。


 「それとも、凄いマジックアイテムを持っているとか?」


 ウダエカさんも聞いた。

 残念ながら両方とも外れ。ジーン達のお蔭なんだけどそれは言えない。


 「や、薬草ソムリエになる為に勉強中です」


 「へえ。じゃ、ちょっくら仕事ぶり見せてよ」


 モガードさんが驚く事言って、僕の顔を覗き込む。

 無理だ。この人達と一緒じゃ、採取しに行けない!

 僕は、冒険者ギルドの前で途方に暮れた。

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