◇106◇私怨に揺れて――

 「ふはははぁ。まさかこの森のボスを手なずけていたとはな!」


 「手なずけるって! キュイは友達だ!」


 ムダマンスに僕は反論する。


 『その者もテイマーなのかギャウギャウギャウ?』


 「うん。そうだね。僕とは全然考え方が違うけどね!」


 「友達ねぇ。そう言いながらアイテムを付けているじゃないか!」


 アイテム? ネックウォーマーの事?


 「あれはプレゼントにあげたんだ!」


 「あげただと! もしかして作ったのか!」


 僕の言葉に反応したのは、ロドリゴさんだった。


 「あ……。お礼だよ! 助けてもらったから!」


 「しかし……。ボスに装備品をか……」


 そう言われても。

 あぁ、あれならバレないと思ったのに。


 「あれが枷ではないと言うのなら外してみたまえ」


 そう言いながらムダマンスは、がそごそとしている。キュイに何かする気かもしれない!


 「嫌だね! あれはあげたんだから! キュイ! この人が僕を殺そうとしている人だよ!」


 「どうすればいい?」


 「どうすればって……。ムダマンスを……」


 ――殺して。

 そう言えばきっと、キュイはそうするだろう。

 いとも簡単に。


 憎い! ムダマンスが憎い!

 でも、それで殺したらエジンと一緒じゃないか?

 自分の手で殺さなくても命じて殺したら僕が殺したのと同じ。

 ムダマンスが、父さんをモンスターに殺させたのと同じだ!


 でも……許せない!

 僕は、右手をスッと突き出し、ムダマンスを指差す。


 「あの人を……ムダマンスを……」


 「君が負う事はない! てやぁ!!」


 ロドリゴさんが、剣を振り上げていた!

 そして……振り下ろした!


 「ぎゃー!!」


 ムダマンスは、断末魔の叫びを上げ仰向けにひっくり返った!

 予期できなかった為、剣を構える事無くスッパリと斬られた!


 「な、何で……ロドリゴさんが……」


 「ダメだな。抑えられなかった。君に背負わせるぐらいなら私が殺したいと思った。ドドイを殺された事もそうだけど、自分もまんまと騙されていた……」


 「いやぁだぁ!!」


 「え?」


 いきなり泣きながらイラーノさんが、倒れたムダマンスに駆け寄り治癒を始めた!


 「嫌だ! お父さんが人殺しになるんて嫌だ!」


 「イラーノ……」


 剣を立てそれに掴まったまま、ロドリゴさんは膝を折る。


 「すまない、イラーノ」


 「と、父さん……」


 遠くに放心していたミーレンが呟いた。


 「父さん!! わぁー!!」


 剣を振り上げミーレンは、ロドリゴさんを目指して真っ直ぐに走って来る!

 シュ!

 ミーレンの動きが止まった! そして、そのままうつ伏せに倒れ込む。その背中には、矢が突き刺さっていた。

 これで終わったんだ……。

 血の匂いと、イラーノさんのすすり泣く声が聞こえる中、皆は安堵からなのか暫くそのままだった。

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