◆051◆ついて来るな
僕は急いで部屋に戻った。
バンと扉を開け、リュックを手に取る。
「あ、クテュール。お帰り。何か急いでる?」
「僕、家に戻るから」
「うん。気を付けて」
イラーノさんの言葉に頷き部屋を出ようとすると、エジンが立っていた。そして、バッと僕が持っていたリュックを取り上げた!
「ちょっと何するのさ!」
「やっぱり何も入ってない。これ空だけど持って行っても仕方がなくないか?」
「う、うるさい……」
エジンからリュックを取り返す。
よく考えれば、持って帰る物などなかった。家に帰れば、着替えもある。どちらかというと、その着替えを持って来るのに使える!
「帰って来る時、着替えを入れてくるんだよ」
「……帰って来る気なんだ」
何だよ。その、いない方がいいっていう様な言い方は!
僕だって、戻って来なくていいなら来ないさ!
「……どいて」
僕はそう言って、階段に向かうとエジンに腕を掴まれた。
「リゼタが一緒に行くってさ。だから俺も一緒に行く」
「はぁ? 来なくていいよ! ほっといてくれないか! そう、リゼタにも言っておいて!」
バッと腕を解くと、僕は階段を駆け下りた。そして、馬車の停留所へ急ぐ。
村までは、馬車で一時間程度。村は通過地点なので、それなりに本数もある。
30分程待てば次の馬車が来るだろう。
「もう! 置いて行くなんてひどいわ!」
その声に僕はギョッとする。確認をしなくてもわかる。リゼタだ。彼女がいるってことは、エジンも一緒だろう。
振り向けば、予想通り二人が立っていた。げんなりする。
「ほっておいてって言ったよね?」
「おばさんが倒れたんでしょう? ほっておけないわ!」
「何が出来るって言うんだよ」
「夕飯の用意!」
と、嬉しそうにリゼタが返して来た。
出来たんだ……。と言うのが、感想だ。
「いや、いいよ。適当に買って食べるから」
「まあ、病人にそんな物を食べさせる気?」
「………」
そんな物ってどんな物だよ。
って、どんな物を作る気なんだ?
「お前、リゼタの手料理が食べられるんだぞ!」
「エジンは、食べた事あるの?」
「ない!」
ないって……。不安はないのかこいつは。ゲロ不味かったらどうするんだ。
って、エジンはうちでご飯を食べる気でいるのか!
「エジンも家に来る気なの!?」
「おばさん具合悪いんだろう?」
「そうだよ! だから二人共来なくていいから!」
「もうだからでしょ! クテュールは、おばさんの側にいてあげて!」
うんうんと何故かエジンも頷いている。
ダメだ、通じない。
ここから追い返す方が大変だ。
僕の家に泊まるわけでもないだろうから仕方がない。
母さんの為に我慢しよう。
そして10分後に来た馬車に乗って、僕達は村に向かった。
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