第78話:どうして



(元の世界に戻れるのかどうか?)

「それは・・・・・・」

 静かな表情で愛那は呟くようにライツに問いかける。

「可能なんですか?」

 ライツが眉間に皺を寄せて「すまない」と答えた。

「・・・・・・そうですか」

 愛那の感情をなくした受け答え。

 それがライツにはわからない。

 もっと、感情的に怒るなり悲しむなりするものだと思っていた。

「マナは、帰れないことを知っていたのか?」

「いいえ」

 首を振ってそう答えた愛那の両肩をライツが掴む。

 そしてそのまま引き寄せると、愛那の顔を覗き込んだ。

「えっ・・・・・・」

 あまりにも間近にライツの顔があることに愛那が動揺を見せる。

「どうして・・・・・・どうしてマナは、そんなに落ち着いていられるんだ?」

「どうしてって・・・・・・」

「俺がマナの立場だったら冷静じゃいられない」

「そう・・・・・・ですよね。でも、そういうものだと思っていたので」

「?」

 ライツの愛那に対する疑問が心配へと変わる。

 表情が豊かで心の中がわかりやすいといえる愛那が、この話題になってから何を考えているのかさっぱり見えてこない。

(帰れないという現実に、心が追い付いていないのか?)

 そう想像したら、ライツはたまらなくなって愛那の体を抱きしめた。

「えっ! ええっ!?」

 愛那が真っ赤になって慌てふためく。

「ちょっ・・・・・・、ライツ様?」

 腕の中の温かな存在がうごめきながら戸惑いの声を上げる。

 それを聞いたライツが少しだけホッとした。

 いつもの愛那に戻った気がしたからだ。

「ごめん」

 そう言ってライツは力を緩め、そのままその手は愛那の黒髪を撫でた。



 

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