第79話:誤作動
好きな人に抱きしめられた。
その大きな手が優しく撫でてくれた。
気遣ってくれることが嬉しくて。
恥ずかしいけれど嬉しくて。
だけど・・・・・・。
(そっか。やっぱり帰れないんだ)
愛那が知っている異世界もののアニメや漫画の主人公達も、最終回で元の世界に帰ることはなかった。
だからといって、愛那が確実に帰れないかどうかはわからない。
帰れるのか。帰れないのか。
知るのが怖くて、口に出すのも怖くて、それを心の奥底にしまい込んで、見ないようにしていた。
そして現実を知らされた今・・・・・・。
愛那の感情は凪いでいた。
(ごめんね、おじいちゃん、おばあちゃん)
心配させてごめんなさい。
今、あっちの世界はどうなっているんだろう?
警察も動いて、いなくなった私のことを、探しているのだろうか?
あんな場所で鞄を落として消えて・・・・・・誘拐? 家出?
お母さん達も、学校の友達も、ごめん。
もう会えないみたい。
高校を卒業したら会えなくなるだろう未来に覚悟はしていたけれど、お別れは言いたかったな。
(あ~あ。勉強、頑張ったのに無駄になっちゃったなぁ)
(もう、部活でみんなと踊ることもないのかぁ)
(おじいちゃん、おばあちゃん。私のわがままで、一緒に住んでくれてありがとう)
「マナ」
「え?」
ライツの指が愛那の頬に触れていた。
(あ、涙・・・・・・)
悲しいなんて感じていないのに、どうして涙が出ているのか、愛那は不思議だった。
(心と体の接続が誤作動を起こしてるのかな?)
愛那はそう思って笑おうとしたが、結局うまく笑えなかった。
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