第56話:それとこれとは話が違う。



 無表情になったライツが、無言でレディルの近くへと移動し、足を止めた。

「レディル・・・・・・立て」

 見下ろすライツの視線にビクつきながら、レディルは立ち上がる。

「おまえが言ったその暴言が、彼女の心を傷つけた。・・・・・・わかるな?」

 レディルが青ざめた顔で頷く。

「彼女が救世主じゃなかったとしても、17歳の女の子にかける言葉ではないよな?」

 こくこくと今度は二回頷いた。 

「城には行きたくないと彼女ははっきり言った。彼女の怒りは正当なものであり、俺も彼女の怒りに賛同する」

「しゃ・・・・・・謝罪を」

「駄目だ」

 謝罪をさせて欲しいという言葉はライツによって途切れた。

「おまえに会いたくないと言っていた」

「・・・・・・では、どうしたら?」

「おまえが謝罪したいと言っていたとは伝えておく。が、彼女が許す気になるまでは会わせない。俺も会わせたくない」

「ライツ。レディルも反省している。そう言わずに、救世主様の怒りを解き、和解させてやれないか?」

 ここで国王がライツへ頼み込む。

「ぜひ、そうしてもらいたい。私からもお願いしますライツ様。異世界召喚で来られた救世主様と、国の王太子が仲違いとは、体裁が悪すぎますし、どうにか穏便に話を」

 と、そこでライツの視線を受け、神官長の口が閉ざされた。

「言っておきますが、お二人も同罪ですよ? 一応訊きますが俺の知る限り異世界召喚されたら元の世界に帰る方法はなかったはず。・・・・・・だからこそ初代国王は異世界召喚を禁止した。違いましたか?」

「・・・・・・いや、違わぬ」

 国王が答える。

「俺にとって、運命である彼女と出会えたことは、この上なく幸せなことだと言い切れます。ですが、それとこれとは話が違う。彼女からしたら、こちらの都合で誘拐され、勝手に救世主として魔物の討伐を期待され、生まれ育った世界には帰せないと言われる。どうです?」

 この国の人間を救うため、仕方が無かった。

 苦渋の決断だった。

 そう言いたいが、彼女の立場を考えれば、返す言葉がない。

「レディル、もしおまえが彼女の立場だったらどう思う? おまえの愛するルーシェにも二度と会えないんだぞ? いきなり呼び出された異世界のために生きられるか?」



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