第55話:よけいなことを!



「お、怒ってる?」

 レディルは過去、ライツに本気で怒りをぶつけられた経験が無い。

 怒ったそぶりを見せたことはあるが、どこかで「しょうがないな、おまえは・・・・・・」といった甘さがあった。

 なので、今レディルは不安のような感情を抱え、ライツの視線を受け止めていた。

「そうだ。おまえはマナが召喚された時、彼女に何を言ったか、覚えているか?」

 力強いライツの眼差しに、思わずレディルの目が泳ぐ。

「・・・・・・何を・・・・・・? 正直、あの時は動揺していて、あまりよく、覚えていないのだが・・・・・・」

「・・・・・・」

 そのレディルの答えに、目を細めて微笑むライツが恐い。

 二人の間に冷えた空気が流れる。

 そんな二人の仲を取り持とうと、国王が口を挟んだ。

「レディル、謝罪は不可避だ。おまえはあの時、あんな女、顔も容姿も何もかも、ルーシェの足下にも及ばないと言ったのだぞ!」

「そうですな。レディル殿下、きちんと謝らなくてはいけません。救世主様に対し、あれが将来の王妃などあり得ないとおっしゃっていましたからね!」

 国王に続き神官長がそう伝えると、ライツのまとう気の温度が更に下がった。

(よけいなことを!)

 そう叫びたかったが、さすがにまずいと空気を読み、レディルは口をつぐんだ。



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